蒼穹

□VISUALIZE
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「あたし…約束、守れたかな?」


羽佐間の最後の言葉。
死ぬことがわかっていながら、その言葉は強かった。


「何も感じない…悲しいことがあったはずなのに…」


甲洋の同化されながら呟いた言葉。
同化されながらも発した言葉は、あまりにも痛々しかった。



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無機質な白い空間に足を踏み入れ、僕は顔を顰めた。
毎日のように誰の許可もなしにココにくる。
人気がないのは、もうわかりきってることだ。

毎日ココにくると足が重たく感じる。
それでも、僕は自分を叱咤して、彼が……甲洋のいる、たった小さな一つの空間に近づく。

ガラス越しに見下ろす甲洋の顔。
目を見開いてはいるが、もう何も映してはくれない。


彼が感じた痛みにリンクした、甲洋の「痛み」が未だに消えない。


目の前で侵食されていく甲洋を見ていることしか出来なかった自分。
一番近くにいるはずなのに、一番遠くにいるという現実問題。
話しかけることしかできない自分に張られた「無力」の二文字。
やるせない想い。

ガラス越しに目の上をなぞる。
そのまま輪郭も少しだけなぞってみる。
そのまま覗き込むように近づくと、ポタリと落ちる一粒の水滴。
黙っていると、また一つ落ちる。
またひとつ。また一つ……。


「ゴメン」


誰よりも「罪」を背負っているのは僕。
何一つ守れなかったのは、僕。

顔を上げると頬を伝う『涙』を拭う事も、ガラスに残ったままの『水滴』も拭くことはできない。


罪は忘れることも、捨てることもできないと知っているからこそ、僕はまた涙を流すんだなと思う。


流れ続ける涙を拭うこともできず、一人立ち尽くす。

もう周囲のどんな罵倒もこわくない。
非情と呼ばれても構わない。

僕が我慢すればいいことなんだから…。

感情を表出せない僕にできることは、こうやって独りで涙を流すこと。
「謝罪」や「悔やみ」や「もどかしさ」や、全ての感情と共に…。


もう慣れた。

この「孤独」にはもう慣れた。


だからまた
涙を流す。




その時
自分の背後にあるドアの開く音が、無機質に響いた。

僕は急いで服の裾で涙を拭う。
誰かと問う前に、開いたドアから声が響いた。


「総士?」


声だけでわかる。
真壁一騎。
誰もが認めるファフナーのパイロットで、僕の幼馴染。


「なんで、ココに……?」


不安そうな一騎の声。
まさか、僕のような意外な人物がいるとは思わなかったのだろう。


「…………」

「……総士?」


何の反応も返さない僕に不安を感じたのか、一騎はゆっくりと僕に近づいてくるのがわかる。

一騎の手が僕に触れる瞬間、僕はその手を払う。
一騎が息をのむのがわかる。
そして俯いたまま、一騎と向き合う形になる。


「総士…何……」

「一騎には関係ない」


何か言う前に冷たく言い放つ僕の言葉に一騎が眉間に皺を寄せるのが、髪の隙間から見える。


「じゃあな…」



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