蒼穹

□策略チョコ
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「はい、総士、これ食べて!」


と、年相応の笑顔を向けて、乙姫は渋面の兄にある物を見せた。
それはキレイに並べられたチョコレート。
チョコレートとは思えない彩り鮮やかな、たった8つの甘いもの。

思わず総士は小さく眉を寄せた。


「千鶴にもらったんだー」


ニコリと嬉しそうに笑顔を向けてくる乙姫。
愛らしいそれに、総士以外の人間なら何でも騙されしまっても仕方ない、とも思える。
だが総士は総士。乙姫の兄。
人一倍、乙姫のことに関しては---性格含め---よく知っているのだ。


「んで?」

「だから、食べようって」

「何で?」

「当たり前じゃない、兄妹だもの」


兄妹の関係だから、わざわざ苦手なチョコレートを食べさせられなきゃいけないのか?
総士は自身でも呆れてしまいそうな思考に、溜め息を吐いた。


「それに、疲れをとるなら甘いもの、でしょ?」


そうだな、と総士は小さく呟くと、止まっていた足を動かした。
その後ろを、トトト…と乙姫が駆け寄ってくる。


「ほら総士、食べよーよ」

「要らない。乙姫が食べてくれ。せっかく遠見先生から頂いたものだろ」

「一緒に食べたいじゃない?」

「僕は甘いものは苦手なんだ」

「好き嫌いは治さないと、大きくなれないぞ」

「…乙姫に言われたくない」


そんな大人気ない会話を交わしながら、2人はアルヴィスにある総士の部屋の前にたどり着いた。
総士はカードキーを取り出すと、カードリーダーにそれを通す。
ピピッ、と音がして扉が開く…はずだった。
が、なぜか開かず、総士は不信思いながらもう一度カードキーを通した。
やはり開かない。

妙な間をあけて、総士は背後にいる乙姫を振り返った。


「乙姫」


案の定、乙姫はどこか満足気に微笑み、総士を見上げた。
そして、一言だけ。


「はい」


乙姫は楽しそうにずっと手にしていたチョコレートの箱を押し付けた。

コレ食べないと、一生このままだぞ。

強い瞳だけでそう言われてしまい、総士は深い溜め息を吐いた。
観念するように手をのばして、一番色合いの地味なチコレートを手に取った。

ここ---竜宮島において、この妹は、まさに最強。


「どう、美味しい?総士」

「………あぁ、美味しいよ」


仕方なく諦めるように言葉を漏らすと、乙姫は嬉しそうに頬を赤らませた。


そして総士の部屋の扉が開いたのは、その一瞬後だった。








(些細なことも、一緒に体験したいの)







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