蒼穹

□Sweet Kiss
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【間宮澄様キリリク】


「疲れた時は甘いものに限る」

そんなことは誰でも知ってる。

だからこそ…




Sweet・Kiss






大きなため息が薄暗い部屋に響く。
目の前に広がる映像を消し、目を通した書類を無造作に机に放る。
総士はイスに身体を預けると、自然と上を向く形になって、無機質な天井が目に映る。
目頭を押さえ、またため息を吐く。


「はぁ……」


少しだけ身体を起こして、机の端に置いてあるコーヒーを一口だけ飲む。



甘いものが苦手な総士がここで飲むのはもっぱら年には不釣合いなブラックのコーヒー。
身体に悪くないのか?という、同世代の周囲に、総士はいつも「刺激剤になるんだよ」と言っている。


「にしても……」


総士は両指を組むと、身体をグッ
と伸ばした。


「んー疲れたな……」


肩で大きく息を吐くと、少しだけ右目を押さえる。
左目の視力がほとんどない総士にとって、右目は普通の人間の、倍以上の役割を果たす。


「少し休もうかな…」


と言うものの、それは出来ないともわかっている。
休んでいるひまはない。じゃないとやるべきことが増えてく一方だ。
かといってこのまま右目を行使し続けると、本当に病んでしまいそうだ。

(冷やせばいいのかな?)

前に医師に言われた言葉を思いだし、総士はそう結論づけ、立ち上がろうとした。

が、それはイスを反転させるだけで、立ち上がらなかった。


「………一騎?」


視界の端に映った幼馴染の姿に、総士は動きを止める。
パイロットの訓練はすでに終了しているはずだ。
何故ここに一騎がいるのか。見当がつかず、総士はただ眉間に皺を寄せただけだった。


「何、してるんだ?」


総士の問いに、一騎はニコッと笑うと、ゆっくりとした足取りで総士に近付く。


「総士の顔、見たくなってさ」


サラリと一騎は言うと、総士の額に軽くキスを落とす。


「…そんな時間あるなら休んでくれ。いざという時に動けなかったら困る」

「大丈夫。俺はまだ疲れてない」

「でも……」

「総士こそ、無理してない?」

「………してないよ」


そう嘘を言って、総士は微笑んだ。



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