蒼穹

□笑顔の先
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【いちか様キリリク】


「あ、総士!お帰りなさ〜い」

「ただいま、乙姫」

「あら?一騎も一緒ー」

「…何で兄でもある総士のこと呼び捨てなんだ?妹なのに」

「一騎、知らないのか?」

「だって、何でも肩書きで呼び合うのって、その人個人を認めていないようで、イヤなのよ」

「総士はそれでいいのか?」

「昔みたくお兄ちゃんと今更呼ばれたら、逆に恥ずかしいよ」




笑顔の先




「あーやっと終わった〜」

「一騎、ごめんな。何か手伝わせちゃって」

「いや。総士の為なら何だってするよ、俺は」


廊下を並んで歩く一騎と総士。
HRで集めた大量のアンケート用紙を職員室に運ぶのが、いつものごとく総士に与えられた。
そういったことを一騎が手伝うのも、当たり前のことである。


「今日もう遅くなっちゃったから、これから一騎の家に行くのやめた方がいいかな」

「え…そんなことないよ。いいから来いよ」

「でもおじさんとかに迷惑じゃない?」

「総士ならいつでも泊まりに来ても大歓迎って父さんいつも言ってるし…気にすんなって」

「じゃあ、行こうかな?長居する気もないしさ」

「そうしろって、な?」

「うん。じゃあ、お言葉に甘えて」


ニコリと笑う総士に、一騎はとてつもない幸せを感じていた。
ついでにあーんなことや、こーんなことや…しようと頭を巡らせていることに
幸か不幸か、その事実を総士は知らない。




自分たちの教室の前にやってきた一騎と総士は、ドアに手をかけた。
話しながら開けたドアを先にくぐった一騎は、誰もいないと踏んでいた教室のに人影が見え足を止めた。


「わ!?ちょ、一騎。いきなり止まるな。危ないだろ」

「あ、ごめん」


一騎の妙な態度に総士は眉を顰め、総士も一騎の視線の先を見やった。


電気もつけず、総士の席にすわる長い髪の小柄な体型。
総士の髪と同じくらいの長さに見えるが、総士ではない。当たり前だが。

こんな堂々と最上級生の教室にいることのできる存在は、一人しかいない。


「おかえりー総士、一騎」

「…乙姫?」


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