蒼穹
□髪の毛
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【希美様キリリク】
「はい、動いていいわよ」
「わーすご〜い!千鶴、ありがとう」
「いいえ。これくらいなら…ね?」
「うん。とっても嬉しいよ!」
「珍しいことじゃないけど、喜んでもらえて嬉しいわ」
「ふふ。あたしにとっては初めてのことよ。本当に、有難う!!」
「それはあげるわ。大事にしてあげてね」
「うん。じゃああたし行くね。コレ、見せてくる」
髪の毛
時が慌ただしくも静かに流れていく中、一騎はいつも通り地下の廊下を歩いていた。
敵がこないことは嬉しいことだが、それでもパイロット以外の人間は慌ただしく走り回っていた。
そんな様子を見つめながら、一騎はさり気なくある存在を探していた。
彼---総士もまた司令補佐、そしてファフナー隊の戦闘指揮官という役割上忙しいのはわかっているが、
ここまで一度も彼を見かけないのは初めてだった。
あまり人気のない廊下を歩いていると、前から見慣れた少女が走ってくる。
少女---乙姫はいつもの大きめの制服と黒い髪をなびかせているが、いつもとは雰囲気が微妙に違う。
「あ、一騎!!」
乙姫は一騎を見つけるなり嬉しそうに一騎の前で立ち止まった。
「どうかしたの?」
「いや、特に用事はないけど…」
「あ、見て見て一騎!これ似合う?」
そう言って、乙姫は自分の髪の毛を指差した。
「リボン?」
「うん」
今の乙姫の髪には、リボンが綺麗にセットされていた。
頭頂部からうなじにかけて、まとめるようにされたリボンは、黒い瞳と髪の乙姫によく似合っていた。
「これ、千鶴に貰ったんだー」
よほど嬉しいのか、乙姫は一騎の前で両腕を広げクルクルと回り始めた。
これが島のコア?などど頭をよぎったが、珍しく年相応の無邪気な乙姫に、一騎は口元を歪ませる。
だが、
「あ!」
咄嗟に一騎が腕を伸ばしたが、間に合わず、白い布がヒラヒラと床に落ちていく。
「あー解けちゃった…」
乙姫が残念そうな顔をする。
クルクルと乙姫が舞ったおかげで、リボンの結び目が解けてしまったのだろう。
サラリと落ちたリボンを拾い、ほろってやってから乙姫に手渡す。