蒼穹

□狂愛の夢
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【瀬王水人様キリリク】


ないてないてないてないて。

ナイテイレバイイ。

なかせてあげる。

うたってよ。

カスレタコエデ、ウタッテヨ。





狂愛の夢






「ねぇ、総士…シよ?」


時計の短針が、2時を示す。
しかし、それは昼の2時、俗に14時と称される時間ではない。
本当の2時。
今日はまだ、2時間しかたっていない。
その、深夜2時。

いきなり現れた彼は。
笑みを貼り付けた無表情で、ただ、そう言った。

そっと近付いて。
総士の顎に手をかけて、引き寄せて。
そのまま唇を奪った。

口を割り開き、舌で総士の口腔を荒らした。
抵抗する腕を無視し、一騎は総士の頭を固定して、続ける。


「ん…ふぁ…やぁ、っ」


首筋を流れるのは白銀の糸。
なんとも妖艶で、それだけで興奮を覚える。

総士が一騎の髪を引っ張る。
それは限界の合図。

一騎はそっと唇を外し、流れた糸を舌で舐め取った。
甘い。
そう、本気で思った。


力の抜けた彼の四肢。
きれいだ、と何度も呟き、抵抗する身体をベットに押し倒した。


「か、ずき…も、ゃ、だ」

「総士」

「なんで、んな…いきなり…」

「愛してる」

「……ぇ」

「愛してるよ総士。総士。総士…」



うわ言を並べた彼の言葉には、何も感じと取れなかった。
愛している、といいながらも。
何かに怯えているようだ、と、総士は直感した。
だが、
そんな押し付けられた理由で、今この状況に至る。
ありえない。

今自分の目の前にいるのは誰だ。
いつも甘い言葉をくれる彼、ではない。
一騎なのに、一騎じゃない。
いつもの一騎じゃない。


そう思ってしまったら最後だと。
気付いたのは、その一瞬後。


総士の心臓は嫌な音を立てて、鼓動を早くさせた。

それは、恐怖。
怖い、と純粋に思ってしまったのだ。


「総士…そ、し…」

「一騎。僕はここにいるんだよ、分かるだろ?だから」

「総士…総士!」

「だから、もう、やめてくれ…」


感じてしまった恐怖を押し殺す。
しかし、意志に反して流れたのは涙だった。
頬を濡らす感触。

意識が朦朧としているようだ。
総士は力ない腕で一騎の身体を押し返そうとする。


「い、痛いか、ら…離してくれ」

「ねぇ、総士」

「……な、んだ?」

「総士はさ、俺のものだよ。誰にも渡すつもりはないから」

「一騎?」


真っ直ぐな瞳が微かに揺れる。

しかし、総士はいまだに一騎の言っていることがわからない。
理解できない。
全てが繋がらない言葉と心。


「だから、もうどこにも行かないでよ」

「っ、一騎、やめろ!」


そんな総士の言葉はお構いなし。
一騎はどこからか取り出した紐で、総士の両手を後ろでに縛り上げた。
白い肌に紅い紐がよく映える、と。
一騎が小さく呟いた。
そんなこと、関係ない。


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