□万華鏡
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街の雑踏の中を歩くのはあまり好きではないが、好きな人と歩くのなら構わない。

そう内心思いつつ、黒い髪をした少年は、隣にいる金髪の少年を見た。

今日は久しぶりに訓練の休みの日。完全なるオフ。
シンはレイを誘い、街に買い物に来たのだ。
こういった貴重な休みの日は、大半の訓練生は買い物へと街に繰り出す。
この2人も漏れることなく、そうである。
ストレスの発散、ともいうが、シンにしてみればこれはデートで。
曰く「買い物デート」らしいのだが、当然レイが気付くはずもない。


「あ」

いきなりレイが声をあげ、立ち止まった。

「どした?」

レイが指差す方を見ると、そこには一件の見慣れない店。
新しく出来た店らしく、外装がとても綺麗なままだ。
小汚い様子など、片鱗も感じさせないほどに、その店はそこにあった。


「行ってみるか?」

「いいのか!?」

「うん、勿論。俺も興味あるしね」


そういって2人でその店に足を踏み入れた。
先ほどの興味深々さを強く映したレイの表情を見ながら、シンは。

(あんな顔されちゃ、行くしかないって)

と、どこか惚けたような自分に、また笑った。


店内は明るく、とても好感のもてる作りになっていた。
インテリアショップなのだろうか?
そういったキレイなものたちが沢山置いてあった。

レイは物珍しげに店内を見渡すと、ある所で視線が止まる。

「シン、これ何だ?」

少し長い筒状の、見た目も鮮やかな物を手に取り、レイはシンを振り返った。


「知らないのか?これ万華鏡だよ」

「…まんげきょう?」


本当に知らないのか、レイは小首を傾げた。

「ほら、こうして使うんだよ」

シンはレイから万華鏡を借りると、天井の光が入るように掲げてから中を覗いた。
多くの色がクルクル変わって、とても幻想的な小さい世界を作っていた。

「レイも見てみなよ、すごいキレイだから」

言われるがままに、されるがままに、みたままに、レイはシンと同じように万華鏡を覗き込んだ。


「どう?」

「うん。とてもキレイだ」


嬉しそうにレイは笑い、シンにありがとう、と言った。
滅多に見ることの出来ない愛らしいレイの笑顔。

「どーいたしまして」

自分の顔もきっと赤いんだろうなーと、シンは笑い返した。

店から出た2人は、再び並んで歩き始めた。
その後も色々と回り、ゆっくりだが時間が静かに進んでいった。



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