□一歩、距離を近づけて
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「………んで?」


冷たく返してはみるが、相手は特に気にする事はなく笑顔のまま。
いつもと何も変わらない、といえば、変わらない。

『俺、レイのこと、大好きだよ』

そんな風に、しかも語尾にハートまで付けられ、嬉しくないわけはない。
そんな台詞、昔の昔(正確に言えばアカデミー時代)から耳にしているわけで。

今更何を返せと?

レイの心中は、そればかりである。


そんなこんなで、ただ今レイは、シン・アスカという同僚に口説かれ中。




「いい加減、返事くらいほしんだけどな〜」


シンが唇を幼子のように尖らせ、同じ目線の位置にあるレイの瞳を覗き込んだ。
それでも
レイの瞳は揺らぐ事はなく、逆に眉を顰められた。
わかってはいるが、これはシンの台詞に対してのものではなく、ただ単に「時間」の問題だろう。
もうそろそろ訓練が始まる。そうなったら、互いに昼食は抜きだろう。
昼食の時間は決まってないが幅広い。しかし訓練の時間は早まりも遅くなることもない。

訓練で吐くことはあるだろうが、何も入れていかないわけにはいかない。力が入らなくなる。
そんなのはゴメンだと言っているのだろが、シンは気にしない。


「はぁ・・・」

重い口を開いてレイの口から出たのは溜息だけ。


「シン、これ以上ここでこんなこと…」

「俺にしてみれば、『こんなこと』じゃなくて、死活問題!!」

「それがお前の生死に関わることなら、今まで何度くらい死んだんだ?」

「…考えたこと、ないかな?」


真顔で答えるシンに、はぁ、とまたレイの溜息が漏れる。

真っ直ぐというか、純粋というか、馬鹿というか。

何とも言いがたい、この沈黙と、この二人間の距離と。
行く当てのない、この不可解な感情と。


「……………」

「……………」


ふと、シンはレイから離れ、一歩だけ下がった。
疑問符を浮かべるレイに対し、シンはニッコリと笑顔を浮かべ、レイの腕を取った。


「俺も、昼飯抜いて訓練は辛いかも」


と言って、食堂への道を歩き始めた。
引っ張られるような体勢のまま、レイは一先ずと溜息を吐いた。



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