他
□夏休みの宿題といつもの原稿
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「あー明日から学校か…」
いつきは大量の書物に囲まれた机の上で、言葉の通り死んでいた。
夏休みの宿題といつもの原稿
「いや、でも学校の授業がないからこそ魔法の勉強をさせられてたわけで…じゃあ学校始まれば…」
「確かに魔法の勉強は減りますが、学校の授業がプラスされると考えると、恐らく勉強量は変わりませんよ」
「…そんな他人事みたいな言い方」
「いやぁすいません。他人事なもので」
「猫屋敷さーん!」
相変わらずの泣きっ面に、猫屋敷は微笑を浮かべた。
静かな社内。
現在時間にして夜の10時半過ぎ。
元気にしていたみかんは、上げすぎたテンションのせいでいつもより早く寝てしまった。
いつきの手元には数枚残った宿題。
ちなみに。
猫屋敷の手元には、半分空白の原稿。
「でも、学校が始まってしまうと寂しくなりますね」
ポツリ、と猫屋敷が零す。
「え?」
「だって、社長も穂波さんも1日中ココにいたようなものでしょう。学校が始まるとそうもいかないのも当然。少し寂しくなるなぁ、と」
「そっか…そう、ですよね」
猫屋敷は大体アストラルにいる。
会社であると同時に家であり、原稿を書くのも全てこのデスクの上だからだ。
更に呪物の整理や管理の仕事も彼が全て負っているらしい。
彼は常にアストラルと共にしている、といっても過言ではない。
「で、でも!」
いつきは持っていたシャープペンを更に握り締めると、必死に言葉を続ける。
「もし寂しいとかだったら、いつでも言って下さい!出来る限りのことはするし、泊まったって全然大丈夫だし、それに…」
「はいはい、そんな必死にならないで下さい社長。そういうのには慣れてますし」
「で、でも」
「そのお気持ちだけで十分です。今は皆さんがいてくれるという事実だけで満足ですよ」
でもみかんさんが寂しがっている時は、お願いするかもしれません、と。
ニコリと微笑まれ、思わずいつきは口元を綻ばせた。
同時に相変わらず自分の駄目さに赤面しそうになる。
「で、社長」
「はい?」
「いい加減にその手を動かさないと…大変なことになるやもしれませんよ、ほら時間とか」
「……あぁ!!?」
慌てて時計を確認して、その時刻に顔を引き攣らせる。
「すいません、社長」
「いえ、こちらこそ。猫屋敷さんはどうです?」
「こちらは…明日までに後…30ページちょい、といったところでしょうか…。社長よりは多いですね」
「そもそも宿題はそんなに出ませんよ…」
いつきと猫屋敷はほぼ同時に大きなため息を吐いた。
完
8万hit記念フリー小説。