□夏休みの宿題といつもの原稿
1ページ/1ページ


「あー明日から学校か…」


いつきは大量の書物に囲まれた机の上で、言葉の通り死んでいた。



夏休みの宿題といつもの原稿




「いや、でも学校の授業がないからこそ魔法の勉強をさせられてたわけで…じゃあ学校始まれば…」

「確かに魔法の勉強は減りますが、学校の授業がプラスされると考えると、恐らく勉強量は変わりませんよ」

「…そんな他人事みたいな言い方」

「いやぁすいません。他人事なもので」

「猫屋敷さーん!」


相変わらずの泣きっ面に、猫屋敷は微笑を浮かべた。

静かな社内。
現在時間にして夜の10時半過ぎ。
元気にしていたみかんは、上げすぎたテンションのせいでいつもより早く寝てしまった。

いつきの手元には数枚残った宿題。
ちなみに。
猫屋敷の手元には、半分空白の原稿。


「でも、学校が始まってしまうと寂しくなりますね」


ポツリ、と猫屋敷が零す。


「え?」

「だって、社長も穂波さんも1日中ココにいたようなものでしょう。学校が始まるとそうもいかないのも当然。少し寂しくなるなぁ、と」

「そっか…そう、ですよね」


猫屋敷は大体アストラルにいる。
会社であると同時に家であり、原稿を書くのも全てこのデスクの上だからだ。
更に呪物の整理や管理の仕事も彼が全て負っているらしい。
彼は常にアストラルと共にしている、といっても過言ではない。


「で、でも!」


いつきは持っていたシャープペンを更に握り締めると、必死に言葉を続ける。


「もし寂しいとかだったら、いつでも言って下さい!出来る限りのことはするし、泊まったって全然大丈夫だし、それに…」

「はいはい、そんな必死にならないで下さい社長。そういうのには慣れてますし」

「で、でも」

「そのお気持ちだけで十分です。今は皆さんがいてくれるという事実だけで満足ですよ」


でもみかんさんが寂しがっている時は、お願いするかもしれません、と。
ニコリと微笑まれ、思わずいつきは口元を綻ばせた。
同時に相変わらず自分の駄目さに赤面しそうになる。


「で、社長」

「はい?」

「いい加減にその手を動かさないと…大変なことになるやもしれませんよ、ほら時間とか」

「……あぁ!!?」


慌てて時計を確認して、その時刻に顔を引き攣らせる。


「すいません、社長」

「いえ、こちらこそ。猫屋敷さんはどうです?」

「こちらは…明日までに後…30ページちょい、といったところでしょうか…。社長よりは多いですね」

「そもそも宿題はそんなに出ませんよ…」


いつきと猫屋敷はほぼ同時に大きなため息を吐いた。







8万hit記念フリー小説。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ