□図書館
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「ったく、相変わらずトロイ奴だな」

ここはある大きな図書館。
2階建ての広い図書館の1階奥、飛鳥井柊一は溜め息混じりに言った。
彼は柊一の台詞に眉を顰め、フンと鼻を鳴らした。


「放っておけよ」


自分でも相当子供っぽいと思いつつ、楠木誠志郎は顔を逸らした。


「さっきから見てるとアッチ行ったりコッチ行ったり」

「いいだろ別に」

「検索はしてみたのか?」

「混んでるから、してない」


言われて柊一が視線を動かせば、列をなす検索機前。
これだけ広い図書館になると検索システムの数も少なくはないが、逆に言えば書架の数も多い。
検索機は自然と重宝される。


「仕方ない。…楠木、何の本探してるんだ?」

「え!?あ、これ…」


と、誠志郎は1枚のメモを取り出した。
柊一がそれを受け取ると、ひとりウンウンと頷き、急に方向を変える。

「この本、確か2階だぞ」

サラリと言ってくれる柊一の背中。
は?と思う間もなく柊一が歩き始めたので、誠志郎は慌てて後を追った。




「それより、何でお前こんな古い本。ヤミブンに置いてないのかよ?」

「次の仕事の前に読んでおこうって思ってたんだけど、今は修復中で」

「ふーん」

「お前は何でここに?」

「ん?図書館に来る理由なんて一つしかないだろうが」

「いや、そういうことじゃなくて」

「ここの図書館の書架の数多いからな、よく来る。ただそれだけだ」


柊一はそこで会話を区切ると、ここだ、と小さく呟いて立ち止まった。

2階の奥にある人気のない書架棚。
基本的に2階にはその地域の歴史書や、あまり人目につかない文献が数多く収められている。
少し埃っぽいニオイが鼻を刺激しているようで、誠志郎は本当にここにあるのかと怪訝な顔つきになった。
そんな誠志郎に気付いたのか、柊一は少しだけ口元を歪ませた。



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