□君と僕のハジマリ
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「飛鳥井!?」


大雨の中、誠志郎はらしくもなく大きい声で彼の名を呼んだ。

こんな雨の中に傘もささずに公園のベンチに座っているなんて、おかしすぎる。


たとえそれがある意味敵対しているような(実際はそんなことない)組織の人間だとかは関係ない。
それよりも、ひとりの人間として彼に「ある種の感情」を抱いていている身としては放っておくことは出来ない。


「お前、何してるんだ?」

誠志郎が柊一に駆け寄り、訊く。

「別に」

と薄く返事を返してはくれるが、それ以上は何も言わない。
いつもは嫌味の一つや二つ、当たり前の彼だというのに。


「ほら、傘の中入れって」

「要らない」

「飛鳥井!」

「…要らないって言ってるだろ」


静かだけど、有無を言わせない強い意志の、柊一の言葉。
珍しく荒れている様子の柊一に、誠志郎も思わず押し黙り、差出した傘が中途半端な位置で止まる。
それによって自らも雨に濡れる事になったが、やはりどうでもいいことだった。


「何だってこんな所にいるんだよ」

「別に、どうだっていいだろ?お前には関係ない」

「関係ないって…」

「お前こそ、何でこんな公園にいるんだよ」

「大学の帰りだよ」

「あそ」


訊いといて何だ?と文句は言わない。
否、言えない。
こんな空気の中で言えるはずない。

改めて、誠志郎は顔を伏せたままの柊一を見直した。
彼にしては珍しく、制服に身を包んでいる。
制服は肌に張り付いており重たそうに感じられる。
髪もペタリとなっていて、絞ったら沢山の水が流れ出しそうだ。
この雨の寒さのせいか、小刻みに揺れているようで、しかも垣間見える唇は既に青い。
病気のように肌は血の気をなくし、見ているだけで痛々しい。


「飛鳥井…」


誠志郎はそっと柊一に腕を伸ばした。
そのまま膝に置かれた手に触れる。
だが、直ぐにその手は離れ、誠志郎は目を見張った。


「お前、何で…?」


何度目になるかはわからないが、同じ台詞を何度も口に出した。
今触れ合った手が離れたのは、柊一が払ったわけではない。
誠志郎が思わず手を退いてしまったのだ。


彼のその、手の冷たさに。


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