□温泉へ行こう!
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【多路 麗蔭様キリリク】


薄い煙、のようなモヤが広い空間を満たしている。


「あ〜生きかえるー」

「…おやじくさ」


微妙にその声は、反響した。





温泉へ行こう!





カポーン、と、雰囲気だけの幻聴を聴きながら、誠志郎は特有の高い天井を見上げた。
もちろん、そんな情緒溢れる音など存在しない。
むしろ逆に微かに水が流れる程度。
どちらかといえば静寂に近い状況だった。


「人もいないし、まさに最高。なぁ、飛鳥井」

にっこり、と誠志郎は隣にいる柊一に話しかけた。

「そうだな…」


少し頬を赤めながらも、柊一は素直に返事をした。






今2人がいるのは、とある銭湯だった。
たまたま重なった休日---というより、土日。
2人は少し生活空間を抜け出し、ありふれた旅館へとやってきたのだ。
中途半端な時期なせいもあり、有名な温泉街でないこともあり。
更に入浴時間が深夜の真っ只中であるので、今この空間には2人きり。
並んで湯船に浸かっているので、会話がなければ静かなものだ。


「そうそう。飛鳥井、知ってるか?」

「何をだ?」

「そこ、露天風呂」


と、誠志郎は入り口とは正反対の位置にある、半分陰に隠れた扉を指差した。


「…あれが、露天だったのか」

「知ってたのか?」

「あぁ。他の客が何かそんなこと言ってたから」

「そ、なら行かないか、外」

「寒そうだからパス」

「をい…お前なぁ」


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