題
□容易く声はかけられない
1ページ/1ページ
「飯、できたってさ」
大鍋をかき混ぜていたルイスに言われ、呼びに行ったのはデヴィッドの部屋。
換気に開けられたドアを覗けば、相変わらずのしかめっ面でパソコンと向かい合っていた。
(聴こえてない、な)
軽く鼻から息を漏らす。
いつもはちゃんと届く声、集中していても聞いてくれる声。
にも関わらず、今の彼は何も聴こえていない。
そんなデヴィッドの真剣さを、嫌でも感じてしまう。
珍しい。
声をかけることを躊躇う、自分なんて。
いつも見下ろされる。
いつも命令される。
いつだって一歩通行。
(なんか、むかついてきたな…)
どうすることも出来なくて、ただデヴィッドの横顔を見つめる。
それでも変化がないので、カイは諦めて、そこでようやく視線を外した。
ルイスに頼んで、彼の食事を運んでやろう。
作り立てを食べてもらうのが、ルイスの喜びだ。
食事を運ぶのは何だか癪だが、彼が動かないと自分も動けないことも承知している。
もう子供ではない---彼らにしてみれば十分な子供の領域だが。
だからわかる。
話しかける間も、話しかけてもいい雰囲気も、身を引くタイミングも。
今のこの瞬間は、間違いなくそのうちのどれか。
本当はそんなお利巧にはなりたくない。
カイは舌打ちした。
容易く声はかけられない
(オレとオマエじゃ、違いがおおすぎて。イヤになる。)