□どうしてここにいるの
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時計を見た。
見たくない現実が突き刺さる。

携帯を見た。
電池のない真っ暗な画面は、相変わらず。

外を見た。
春なのに、吐く息が、白。


生きていれば、何度かはトラブルしかない日がある。
三度目の正直、というけれども、二度あることは三度あることも多い。

そう、たとえば。
珍しく早起きして大学に向かえば、財布を忘れたのに気付く。
電車はいつもより混雑していて、下車するまで足を踏まれ続けた。
財布には定期以外に、千円札1枚。
突然の休講、に急遽入った振替の講義。
本日締め切りのレポートの提出寸前に、表紙の間違い。
パソコンルームの盛況ぶり。
気付けば携帯は充電がなくなっていて。
気付けば、約束の時間は過ぎていた。


誠志郎が大学を出た時点で、待ち合わせの時間は10分ほど過ぎていた。
これから移動となると厄介だ。
しかも今乗っている電車は、蒸し暑さを通り越した、超のつく満員電車。
人身事故でダイヤが狂い、帰宅ラッシュとぶつかったことが原因だ。

見たくない、時計。
1時間以上たってしまった。


(いない、よね。飛鳥井の性格上、いなさそうだもん)


高校生のくせして自分よりもしっかりした彼は、時間に厳しい。
数分なら許してくれるが、5分以上となると、それはそれは厳しい。
5分以上の遅刻は前もって連絡すべし。
まさにそれを今破ろうとしているのが、誠志郎なわけで。


「本当、厄日…」




電車から飛び降りて、改札も駆け抜ける。
肩で息をすると白色が広がる。

明日が休みの駅前は混雑している。
その中から、待ち合わせ場所へと足を向けながら柊一の姿を探す。
駄目で元々。

結局、どんなに探しても彼はいない。
どうしようもない心地に、誠志郎は泣き出しそうになりながらも近くのベンチに腰掛けた。

次会ったら、謝らないと。
いや、その前に会ってくれないかもしれない。
悶々悶々。


「…はぁ」

「……ため息付きたいのは、こっちの方だが」


聞きなれた声に、顔を上げた。


「どーして、ここに?」

「どうしてって……、待ち合わせ、ここだよな?」

「そうだけど…」


1時間以上、彼は待っていたというのか。
時間に厳しくて、現に一度帰ってしまったことのある、柊一が。


「…ごめん、なさい」

「別に怒ってない。それが約束ってもんだからな」



どうしてここにいるの
(約束は守るものだって、子供の頃に、教わっただろ?)
























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