題
□なんで、笑うの
1ページ/1ページ
「早く下ろしてよね」
「はいはい」
アキラの私用車の助手席に下ろされるナツ。
しかし座るといっても、足は外に出したままの方向で。
「なっちゃん運動神経良いって思ってたけど…」
「良いわよ!だから、こんなの初体験よ」
ブスリとしたナツに苦笑いするアキラ。
いつものように、人目のない場所で過ごしていた2人。
とある寂れた神社を見つけ、階段を上がり、何もしないで---ナツは神も仏もないような言葉を発していたが---戻ってきた。
が、帰りの階段でナツは足を踏み間違えたのだ。
転び落ちそうになるのを、身体が耐えてみせたが、結局救ったのは伸ばされたアキラの腕。
勝手に捻った体と、引かれた体と。
「それで痛めちゃうなんてね。まぁ、骨には異常ないと思うよ」
アキラはナツの足に触れるためにしゃがみ込む。
ごめんねーと言いながら、足首を診断してくれる。
「赤くなってるだけよ」
「そうかも。でも一応、テーピングしておこっか?」
仕事用に買っておいた新品を開くと、慣れた手付きでナツの足首に巻いていく。
こればっかりはどうしようもないと、珍しく黙っていたナツだったが、思わず噴出す。
「痛かった?」
「痛くて笑うなんて、あたしマゾじゃないわよ」
「どうかしたの。なっちゃん」
「ううん、なんでも。こう見えても、アキラってトップモデルなのになぁ、って思っただけ」
「なんだそれ」
身の危険を助けてくれた。
ここまで背負ってくれた。
今は、テーピングしてくれている。
もどかしくて、面白くて。
ナツは軽く口元を押さえてみせた。
なんで、笑うの
(だって、まるでアタシ…お姫様みたいなんだもの)
(普段はそんなこと微塵にも思わないのにね!)