□笑わないでいいよ
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悪い夢を見た。
否、見続けている。

純粋な人間じゃない自分に、罰を与えるという。
あぁ、なんて残酷なテーマ!
何処にも辿り着かない宇宙を、漂って堕ちていく。




「なんでそんなに無理をしている」

「…はい?」


頭打ったの?と訊きたくなるほどの唐突な言葉。
人気の極端に減った時間帯の愛機整備の最中に、彼はコックピットへと上がってきた。


「気のせいじゃないの?あたしはいつもと何も変わらないけどぉ?」

「…………」

「なになにダーリン。そんなに愛が不安なら、キスでもハグでも…」

「茶化すな」


何もつけていない、素の掌が頬に触れた。
遮った相手の、強い言葉。
彼と自分との、静寂。


「言いたくないなら強要はしない。だが、無理に作られた笑顔を見せ付けられるのも、辛い」

「あたしは、別に…」

「前にも言ったよな。みなの前では笑っていろ、と。だが俺の前では……」


言い終わる前に、彼に飛びついた。
衝動的だった。
どうしようもなく、触れたかった。
どうしようもなく、不安になった。

自分を抱きしめてくれる温もりに、涙が出そうになった。




だれかが堕ちていくのを、だれかが救ってくれる。
神さまとか、そんなものじゃなくていい。
伸ばしてくれる腕は、自分を想って差し出されたものだと信じているから。

悪い夢は、染みになって消えていく。白くなる。



笑わないでいいよ
(僕の前でなら、)























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