□下手な歌でも聖なる調べとなるだろう
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フラフラと街中を歩く。
色鮮やかなイルミネーションが恋人たちを演出する。
そんな中を、男2人で。

「だが、ちゃんとしたカップルだ」

苦笑いを浮かべた。





募金という慈善活動。
集められた金や品が本当に恵まれない子へと届くのだろうか。
そんなことを考え、避け、無駄な話に浸る。


「どうしたんだい?」


急に足を止めた彼の目線を追う。
ストリートミュージシャン。
使い込まれた感のあるギターの弦を、その無骨な指で弾く。
人は疎ら。
町中にかかっているクリスマスソングではない、もっと伝統とされる賛美歌か。
歌詞まではちゃんと聞こえないが、メロディーラインには聞き覚えがある。

彼は無言で近づくと、ポケットかた1枚、取り出した。
一度指先で弾き、逆手で受け取ると、その流れで彼の前にある箱へと落ちる。
男は奏でる指はそのままに会釈し、彼は何も言わず立ち去った。
そして何もなかったような顔で戻ってくる。


「意外に入っていたよ」


金のことを言っているらしい。


「どうしたんだ、柄にもなく」

「なんとなく、な。街中でかかっているものよりは雰囲気はあったろう」

「あまり聴こえなかったけど、どうだった?」

「少なくとも……お世辞にも上手いとは言い切れなかったよ」


どうやら今の彼にとって大事なのは雰囲気らしい。



下手な歌でも聖なる調べとなるだろう
(大事なのは雰囲気であって、実用性ではないのですよ)































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