□どんなケーキを食べるとしても、一人じゃないなら美味しいだろう
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「素晴らしかったな」

「途中からだったけどね」

「1分でも参加できればいいさ」

相変わらずな独自論に、そうだね、と笑い返す。
特別な執着を持たないのは、君もだね。





教会でのアドベントが終わり、人より早めにその場を離れる。
わざわざ参加した意味があるのだろうか。
まぁ、どうでもいいか。

このままどうするか。
一言二言言葉を交わし、当然の如く自分の家へ向かうこととなる。
近いとか、そういうものではない。

彼は言う。
自分は招く側であって、自宅の玄関で僕を迎え入れる。
だから、それ以外は家に招かない、と。

要するに、彼の家で過ごしたいときは僕一人が招かれなくてはならない、ということ。

なんと面倒だ、と最初こそ頭を悩ませたが、今となってはどうでも良い。
この、独特な価値観と性格を持つ彼との付き合いも長い。
慣れとは恐ろしい。
慣れてしまえば、悩みも何もなくなるのだから。


「そうだ、忘れていたな」


突然言い出した彼は、あるものを指差した。
その先を見ると、街頭販売のケーキが並べられていた。
もう遅い時間なせいか、定価よりも数%値が下げられているようだ。


「買うのかい?」

「一応クリスマスだからな」

「甘そうだね」

「お前は好きじゃないのか?」


あえて何も言わず、少しだけ笑ってみせた。


「まぁ、どんなケーキでも構わない」


彼はそう笑い、街頭販売に近づく。
いらっしゃいませ!と笑顔の金髪女性店員が、頬を染める。
残念だけど、彼は僕のだよ。


「お前と一緒に食べるのなら、どんなものでも美味しいに決まっているからな」


なんて男気溢れる存在だろうか。
当然と言わんばかりの笑みに、僕の心は歳相応にもなく高鳴る。

彼の財布を押し止め、自らの財布を出して金額を支払う。


「さぁ行こうか」


少々不服そうな視線を感じたが軽く流してケーキの箱を受け取った。




どんなケーキを食べるとしても、一人じゃないなら美味しいだろう
(貴方がいれば、それだけで甘いエッセンス。)






























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