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□君がいるだけで良かった
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綱吉がこのような目に合うようになったのは、1ヶ月前に遡る。
獄寺は顔を思い出すだけでも虫酸が走る、一人の少女を思い返す。
――1ヶ月前。
綱吉と獄寺のクラスに、転校生がやって来た。大きな琥珀色の目と柔らかそうなミルクティー色の髪。小動物を連想させるような愛らしい容姿に、男子生徒はもちろん、女子生徒も心を撃ち抜かれた。
「大入エルザです。よろしくお願いします」
にこりと柔らかな笑みを浮かべるエルザに、クラス中の保護欲が刺激されたことだろう。それは、山本とて変わらない。むしろ、面倒見のいい山本こそ、エルザのようなタイプに弱いかもしれない。
ほんのりと頬を染めている山本を見ながら、獄寺は鼻を鳴らした。確かに、獄寺から見てもそこそこ可愛らしい女子であることは間違いない。
しかし、そこまで騒ぐ意味が分からなかった。エルザは愛らしい。しかし、それよりも、綱吉の方がずっとずっと守ってやりたくなるのではないかと思う。
そんなことを思いつつ、獄寺は綱吉へと視線を移した。
「……十代目?」
綱吉へ視線を移した獄寺は、驚きのあまり思わず目を見開いた。
……綱吉は、ひどく怯えていたのだ。真っ青な顔をして、微かに身体を震わせて、エルザのことを見ていた。
獄寺は再度エルザの方へと視線を移した。エルザは相変わらず柔らかな笑みを浮かべながら、クラスを見渡している。
一体、あの少女に何を怯える要素があるのかと不思議に思った獄寺だったが、次の瞬間には考えを改めざるを得なかった。
エルザが、ほんの一瞬だけ。それはマフィアとして裏の世界で生きていた獄寺しか気付けないであろうほんの一瞬。
綱吉を見て、冷たく笑ったのだ。
(あの女、危険だ……!)
獄寺の頭の中で警告音が鳴り響く。
綱吉とエルザを近づけてはいけない。