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□君がいるだけで良かった
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まるであの人の涙のようだと獄寺は思った。

どしゃ降りの雨は降りやむ気配がない。真っ黒な傘を差しながら、獄寺は一人の人物を探していた。焦りと憤りの表情を浮かべた彼の足取りは速い。すれ違う並盛中学校の生徒は驚きで振り返ってくるが、そんなことは気にしていられない。

人気のない場所は一通り探した。
残る場所は、体育館裏だ。

「十代目……!」

ズボンに泥が跳ねる。前髪が濡れて額に張り付く。しかし、そんなことは獄寺にとってどうでもいいことだ。獄寺の探し人である十代目こと沢田綱吉が無事であれば、それで。
一際大きな水溜まりを踏みつけた時、獄寺は見付けた。
雨に濡れ、身体中が泥だらけになり、その場に倒れてぴくりとも動かない綱吉を。
その姿を見付けた瞬間、獄寺は傘を投げ出して綱吉に駆け寄った。ぬかるみに足を取られそうになりながらも、何とか綱吉の元にまで辿り着いた。

「十代目!!」

倒れる綱吉の身体を抱き上げ、獄寺は呼び掛けた。
固く閉じられた目は僅かに震えたものの、開かれない。
よくよく見てみれば、綱吉の身体は傷だらけである。擦り傷に切り傷。そして痣。見ているだけでも痛々しかった。
ぎゅっと眉を寄せ、獄寺は綱吉の雨で冷えた身体を抱き寄せる。

「十代目、起きてください、十代目っ! 沢田、さん……!」

堪らずに獄寺が名を呼ぶ。
すると、綱吉の目がぴくりと震え、小さなうめき声が上がる。
獄寺が顔を見れば、綱吉がうっすらと目を開けた。

「……う、……うぅ、ん」

「……十、代目!」

「獄寺、くん? ……そっか、オレ、また」

綱吉の目がまた閉じられる。
気を失ったのではないかと獄寺が慌てて更に抱き寄せるが、綱吉が大丈夫だと呟いたのでほっと胸を撫で下ろした。
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