Novel

□バブルバス
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確かに所々覗く傷跡は痛々しいと思う。
だからって、俺が有糸を嫌いになる理由にはならない。
こんなに好きになるなんて自分でも思ってもいなかった。
今更嫌いになんかなれないと、苦笑いが漏れる。

「アヒルとちゅーしても嬉しくねぇんだけど」
「えー?可愛いのにー」
「そーじゃなくて!だからさ、ちゅーしてって」

瞬間驚いた様な表情を見せた後、俯いた。
心なしか肩が震えている様にも見える。

「ヤだった?」
「違うー…菫ちゃんが可愛すぎてちゃんと息出来ないー」

自分が可愛いだなんて見当違いな言葉を否定しようと開いた口は、重なった唇に言葉を掻き消される。
照れたように笑って、手を掴まれる。

「逆上せる前に出よー」
「ん」

文句の一つでも言ってやろうと思っていたのに、キス一つで全て許してしまう自分に苦笑いが漏れる。
さっさとバスルームを後にし、そそくさと服を着込む有糸に制止の声を掛ける。

「あ、待って!これ着て!!」
「何これー」
「プーの着ぐるみパジャマ!」
「えー?やだー、似合わないよー」
「絶対ぇ、可愛いから!!」

有糸は渋々といった風に、手渡したプーの着ぐるみを着て見せる。

「うわ!凄ぇ可愛い!!」

余りの可愛さに飛びつく様に抱き付くと、有糸が少しよろめく。

「菫ちゃんは着ないのー?」
「俺はいいの!」

俺はというと、お気に入りのスエットに着替えて冷蔵庫の中に冷やしてあるミネラルウォーターを取りに向かう。





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