Novel

□愛していると言ってくれ
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「なぁ、俺と付き合ってみない?」

不良グループのリーダーに、
そう言われた。
僕は、所謂オタクなわけで、
どう見たって不釣合いだ。
その前に僕も彼も男なわけで…。
でも、拒否するのが怖くて思わず頷いてしまった。

「蜷川ー!ジュース買ってこい!」

机に足を置きながら、沢山の不良達を従えて僕に命令する。
彼の名前は、谷垣菫。
付き合ってみて分かったのだけれど、彼は凄く我侭だ。
しかも、傍から見れば僕は彼氏というよりは、完全に不良に苛められているオタク。

実のところ、僕は初めて告白された。
今まで誰にも好きだとか、そういう類の言葉を言われたことがなかった。

両親でさえ僕を嫌うのだから、他の人に愛情を求めても返事なんか返ってくるはずもない。
両親は僕を見るたびに憤怒し、
罵り、手を上げた。
好きだとか、愛してるなんて程遠い。

脱線してしまった思考を遮断し、余りもたもたしていると、谷垣君に蹴られるので、
わかりましたぁーと言ってそそくさと教室を後にした。

僕は、行動も遅いし、
喋るのも遅いからよく谷垣君に苛々すると言われる。
だから、早く行かないと。
少しでも、好きになって貰える様に。

「なぁ、菫ー。お前ホントに蜷川のこと好きなの?」
「は?んなわけないじゃん。ただの暇つぶし。だって、俺の本命は美香ちゃんだもん」
「お前、それ最高!超ウケル」

なんて会話が教室内では行われており、ゲラゲラと下品な笑いが室内を循環していた。
そんなことを知るはずも無いオタクは自販機の前で苺牛乳のボタンを慌しく何度も押していた。

早く、早く。
思考はそればかり。
やっと出てきた苺牛乳を抱えて、全速力で教室まで戻った。

谷垣君、少しは褒めてくれるかなぁー?
なんて急ぎ足の割りに、呑気な事を考えていた。

「あ、あの、ジュース買って来ました」

そう言って手の内にある苺牛乳を谷垣君に渡した。
遅いと言って、あんなに急いだのにも関わらず結局僕は左の太ももを思いっきり蹴られた。
突然襲ってきた激痛に何とか耐えてすみませんと謝った。
顔を上げると谷垣君がにっこり笑って、『蜷川、超好き』と言われた。

さっきまでの痛みなんてどこかに行ってしまった。
その言葉が欲しいが為に僕はあんなに必死になるんだ。
無意識のうちに口元が緩んでいて、周りからは、キモイ、ウザイと散々言われた。
ウザイという言葉は大嫌いだ。
というよりも、言われる度に死にたくなる。

いきなり無表情になった僕を不快に思ったのか、教室内の空気が一気に殺伐としたものになる。
でも、谷垣君には嫌われたくないから、無理に笑って見せた。

そしたら、凄い勢いで鳩尾に蹴りが入った。
机と一緒に吹っ飛ばされて眼鏡が中を舞う。
パリンという音と共に眼鏡は呆気なく壊れた。
僅かに浮かんだ涙でぼやける視界で眼鏡を探していると、教室内がザワついた。

「え?あれ、蜷川くん?超男前じゃない?」
「誰?え?蜷川なの?」

僕は自分の容姿が大嫌いだった。
別に視力は悪くない。
眼鏡だって、度は入ってない。
眼鏡をしていないと、死んだ父親にそっくりだから。

母親は発狂しながら、
体を求めてくる。
何度も何度も、愛してると叫びながら。

義理の父親はそんな僕達を見て、激怒する。
僕が許しを請うことも出来ないくらいに、あいつは取り乱して、ただただ、暴力を振るう。
あぁ、悪夢が蘇ってくる。それと共に吐き気に襲われた。





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