Novel
□愛していると言ってくれ
2ページ/9ページ
気が付けば僕は保健室に居た。
向かいにある鏡には、脂汗をかいて、今にも死にそうな自分が居た。
いつになっても、開放されることなんて無い。
いっそ、死んでしまおうか。
そう思って、向かい側にある机にふらふらと歩み寄っていって、カッターを探した。
未だボーっとする頭で無心にカッターを探す。
あ、あった。
右手にはめた腕時計を外して、カッターの刃を食い込ませていく。
瞬間、痛みが走ったが、何度もそうしている内に感覚が麻痺して、それすら快感に思えた。
また意識を手放そうとしたら、派手な音をたてて保健室のドアが開いた。
そこに居たのは保健室の先生じゃなくって、谷垣くんだった。
彼は、僕の手を見て、目を見開いて、声を荒げて徐々に距離を縮めてやがて僕の目の前に立った。
「は!?お前何やってんの?」
「…死のうと思って」
酷く掠れた声がでた。
「何で?」
答えることなんて出来ないよ。
ずっと黙ったままでいると、谷垣君が苛々しだしたのに気付いて、何でもないよって言った。
言えないよ、愛して欲しいなんて。
「なーんで、そんな泣きそうなの、お前」
何で、いっつも、あんなに冷たい声なのにこんな時だけ優しい声で尋ねてくるの?
止めてよ。気紛れな優しさなんていらない。
何だか耐えられなくって、此処から逃げ出そうとドアに歩みを進めると、左腕を掴まれて、少し不機嫌な顔で待てって言われた。
「お前、そんな血流して教室戻る気?ちょっと、お前、ベッド座れ」
僕の返事なんか聞く気もないようで、消毒液、ガーゼ、包帯を持ってこっちに向かってきた。
ベッドに腰掛けて、空いている隣をポンポンと叩いて、早くって言った。
恐る恐る近付いて隣に座ると、手馴れた仕草で深く抉れた手首に処置を施してくれた。
何だか、谷垣君が触れた場所がジンジンと心地よい熱を持つ。
居た堪れなくてずっと、俯いたままだった。
面倒臭い奴だって思われてそうだなぁって。
それと同時に、谷垣君のことを凄く好きだなぁって思う自分もいた。
もしも、願いが叶うなら、谷垣君に一度でいいから愛してるって言われたい。
そんな、馬鹿げた思考を掻き消して、精一杯の笑顔で、谷垣君に『ありがとう』って微笑むと、僅かに顔を背けて、おうって返された。