Novel

□失踪する涙
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あの頃よりは幾分かはマシになったと思う。
それでも、やっぱり雨は苦手だ。
自嘲癖が湧きあがって来るから。
傷だらけの両腕を見て苦笑いが漏れた。

何度死にたいと思っただろう。
それでも寸でのところで命を捨てられないのは、
一度でいいから愛して欲しいと思っていたからなのだろう。

あぁ、やっぱり雨の日は苦手だ。

思考まで殺される。
愛して欲しいと望んで、やっと手に入れたのに。
途端に今の幸福が途轍もなく怖くなった。
きっと、もう手放せない。

図書室の一番奥で本を読みながら、数日前までの狂ったような毎日を思い出していた。
あの人はとても固執する性格だから、今頃僕を探してるだろうな…。
ただ、寂しさを埋めるためだけに。

相変わらず窓の外は酷い雨だった。
雨の勢いは時間が経つごとに増していき、その音が一層僕を悲観的にした。

恋なんてしたことがなかったから、
この感情に戸惑っている。
縋りつくような僕の目も、言葉も、全て受け止めてくれる菫が途方もなく愛しく思う。

やっぱり、一人になると、とても弱くなる。
数日前に菫から渡された携帯のメールの機能を開いて、たった一行のメールを送った。

『会いたい』

たった、数メートルの距離が、
途方もなく遠い。

ぼーっとしていると手の中の携帯が震え、
着信を知らせる。
メールには、『あとちょっとで補習終わるから、先に玄関で待ってて』というメールが返ってきた。




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