Novel

□ヒステリックブルー
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俺の姿は美術室には酷く不釣り合いなのだろうが、俺が唯一安らげる場所だ。
沢山の色に囲まれていると、俺の目の色だって不自然じゃないような気がしてくる。
バカみたいだけど、その一瞬が俺にとっての僅かな救い。

「先生ぇ〜、デッサン提出するから、単位ちょ〜だい」
「お前なぁ…教室開いてるから、出来たら職員室持って来い」

溜息を吐いて、ブツブツ呟きながら美術室を出て行く教師。
は?ちょ、人入れんなって。

「了解〜、って、あれ?先客あり?」

俺を見て驚いた顔をしていた。
何でこんな奴がとでも思ったんだろ。
そういう風に見られることには慣れてる。
せめて、絵を見られたくなくて、
キャンパスの裏側をそいつの方に向けながら絵を描き続けた。

『綺麗な絵だね』

隣から聞こえてくる声に吃驚して顔を上げると、人懐こい笑みを称えた奴が立っていた。
まさか、そんなことを言われるとは思ってなくて、照れ隠しみたいに早口で『別に』と返した。
そいつは、違うクラスの奴で、確か女子人気が高くて校内でも有名な奴だ。

「ね、名前なんて言うの〜?菫ちゃんと同じクラスの子でしょ〜?」

あぁ、そっか、こいつ菫のダチだ。
菫が蜷川と付き合うまでは、よく二人で帰ってるのを見かけた。
俺は喋ったことないけど。

「…都島」
「え〜、下の名前教えてよ〜」
「…猛」
「じゃ、たけちゃん。俺のデッサン手伝って〜」

何、コイツ。
超慣れなれしい。
気味が悪いほどの人懐こい笑みを向けられて、突き放すことができずに、結局手伝ってしまった。

俺は七原アキヒという奴がどうも苦手だ。
明るくて、皆の人気者で、バカなんだと思ってた。
けれど、それは作り物なのかもしれないと、思うことが多くなった。
なんだか、妙に鋭くて、いつか俺の目にも気付くんじゃないかと思った。

それでも、菫の友達だってことで、昼飯を皆で食ったりしてる内に、一種の憧れのようなものを抱くようになった。
俺は、あいつみたいには絶対なれないから、
羨ましいなって、最初はただそれだけだった。

それから、目で追うようになって、気付いた。
あぁ、こいつは、誰かに恋をしているんだなって。
そのことに気付いてしまったら、僅かに心が痛んだ。
この時の俺はそれが恋だなんて気付かずに、ただ痛む胸に違和感を覚えた。





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