Novel

□鈍色の恋
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常に無表情で愛想の欠片もない。
笑うという行為はとっくの昔に忘れてしまった。
『優等生』それが俺に与えられた唯一の称号。
それがなくなったら俺の存在もきっとなくなってしまう。

だから、要らない知識を頭に捻じ込んでいい子の振り。
眼鏡の奥に隠された目には、絶望しか映していない。

「仲原、金貸してー」

明らかに馬鹿にしたような口調で話しかけてくる不良A。
その声に、顔さえ上げずに無視を決め込む。

「聞いてんのかよ、根暗ぁー」

不良Bが苛々した様に、覗き込みながら聞いてくる。
だが、俺にとって話しかけてくる人間は全て同じに見えた。
群れるだけで能無しのコイツらが嫌いで仕方がない。

話し掛けられることすら、不快だ。
馬鹿にしきった様な顔に反吐が出る。

執拗なまでに金を要求してくる不良達に、さも鬱陶しいと言う様に溜息を吐いて教室を出た。
後ろから聞こえる罵倒は全て無視した。

こんな世界なくなってしまえばいい。
たった一人の人間すら救うことが出来ない腐った世界なんて。
いったい俺の心はどこへ行ってしまったのだろうか?

あぁ、そうか。
腐っているのは、世界じゃなくて俺の心か。

いっそ、人間でなかったなら。
鳥にでもなりたい、不意に空に見えた塊を見て思った。
まぁ、俺なんかが鳥になった所で翼は捥がれて使い物になんかならないだろうが。





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