Novel
□バブルバス
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バスルームから木霊す甘い歌声。
聞き慣れた声は、歌を歌う時には一層高く、甘い声になる。
リビングでテレビを見ながら、浴槽にアヒルのおもちゃを浮かべつつ、熱唱しているであろう有糸を思い浮かべてつい笑みが漏れた。
今日は生憎の雨。
つまらないテレビ番組と五月蝿い雨音を聞いているのに耐えかね、有糸がいるバスルームへと足を向けた。
丁度サビに差し掛かったのか、一層嬉しそうに歌う声に、更に笑みを深めた。
「ゆーし、ご機嫌じゃん」
突然入って来た俺に驚いた表情を向けた後、ふわっと笑うと勢いよく頷く。
「何かね、主題歌変わったんだってー」
「この前最終回だったじゃん」
「あんね、2が36chで始まったの」
「あー、やっと終わったと思ったのに」
「なんでー、美少女戦士ナナミ面白いのにー」
「だって、それ見てる時俺のことほったらかしじゃん」
少し拗ねたように言うと、途端に焦った様に「ごめんね」なんて返してくるもんだから、少し濡れた頭を撫でる。
「頭洗った?」
「まだー」
「んじゃ、そこ座って」
有糸は言われるままにタイルの上に座る。
残り少なくなったシャンプーのボトルから液体を少量取り出し泡立てる。
モコモコと泡立ったシャンプーを緩くウエーブしている髪に撫で付ける。
「お客様ぁ、痒いところはございませんかぁ?」
「えー?へへ、ないですー」
ふざけて言う俺に、有糸が可愛らしく笑いながらそう返す。
泡だった髪の毛を集め、ウルトラマン!なんて遊んでいると、鏡に映った自分が目に入ったのか、有糸が肩を震わせながら笑っていた。
「なーに、笑ってんだよ!」
「ウルトラマン、凄い弱そー」
「いいの、俺が守ってやるから」
「菫ちゃんカッコイイー」
「当たり前だっつーの」
一層嬉しそうに笑う有糸に、髪流すぞ、と言うと慌てて目を閉じた。