Novel

□バブルバス
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相変わらず体に付いた傷跡を見られるのには抵抗がある。
だから、数週間前に買った美少女戦士ナナミの入浴剤を浴槽に大量に投入する。
泡だった浴槽に、体を隠すように首まで浸かる。

「超、モコモコじゃん!いやいや、俺来た時こんなんじゃなかったじゃん!」
「だって…」
「なーんだよ」
「だって、見られたくないもん」
「今更じゃん!」
「…菫ちゃんにだけは嫌われたくないから、だから…」
「も、ホントバカ。何回言わせんの。嫌いになんかなれねぇって言ってんじゃん」

菫が狭い浴槽に無理矢理身を沈める。
お湯は勢いよく流れ出し、向い合う形になる。
徐に僕の手を掴むと傷跡に唇を押し当てた。

「き、汚いよ…!」
「何が?汚くなんかねぇし」

必死に振り解こうと腕をばたつかせる僕の頬を掴むと、至近距離で決定的な一言が発せられた。

「お前の全部が好きなんだっつーの」
「…やっぱり、菫ちゃんは卑怯だ…っ…」
「何が?」
「だって、僕に甘過ぎるよ…」
「当たり前じゃん、お前のこと超好きだもん」

バスルームに立ち込めた湯気だけが原因ではないのだろうけれど、やけに視界がぼやけて見える。
縋り付く様に伸ばした腕が菫を捕らえる。
頬に伝う生暖かい水滴を菫が舐め取る。

「なーくな」

不意に目に着いたアヒルを菫の唇に押し当てる。

「泣いてないもん」
「ちょ、アヒルで抗議か!」

返事を返さずに、微笑み返すと菫も満足そうに笑い返す。
やっぱり、菫が大好きだ。





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