Novel
□余りにも長すぎる幸福の不在
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明らかに様子のおかしい憲太に榛名と談笑していた青年が目を向けると、さり気無く榛名から離れ憲太を追って行った。
涙は一度出てしまったら止まること知らないかのように流れ続ける。
二十三にもなって情けない。
榛名のことになると、感情のコントロールが上手く出来ない。
「あれぇ?憲太君どうしたんですかぁ?」
作ったような声に少し苛々し、不貞腐れた様に黙っていると、顔を覗き込まれた。
「何かあったんですかぁ?」
完全に馬鹿にしたような口調にキレそうになった。
「うっせぇな!どっか行けよ!!」
バッと勢いよく上げられた憲太の顔からは涙が頬を伝って床に落ちた。
どうしてこのタイミングで涙が零れるのか、と悔しさに唇を噛む。
「何で?」と言う憲太に質問の意図が分からないと言うように、とぼけた様子を見せた青年に憲太の眉間に深い皺が浮き上がった。
「何で榛名とあんな…」
「イチャイチャしてんのかって?」
先程までの態度とは打って変わって青年は喉の奥でククっと笑った。
「俺が榛名と付き合ってるのにって?」
余りの豹変ぶりに返事を返せずにいる憲太を無視して青年は話を続けた。
「じゃあ、そういえばいいじゃん」
「そんなこと…」
「恥ずかしくて言えなぁ〜いって?そんなこと言ってるなら僕が貰っちゃいますよ?」
怒りの余り青年に掴み掛かった直後、トイレに足音が響いた。
ぼんやりと視界に映った人影が徐々に鮮明になっていき、その人影が榛名だと気付かせるのに、そう時間はかからなかった。