Novel

□未熟な言葉たち
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「仲原、それはひでぇよ!な、有糸?」
「え、と…た、多分」

有糸の言葉に仲原が顔を上げる。

「蜷川さんは、谷垣さんとデートとかするんですか?」

仲原の問いに、有糸は困った様に笑った後、モゴモゴと言葉を発す。

「家でゴロゴロしてることが多いよねー?」
「デートっても、行くとこねぇしな」
「へぇ、そうなんですか。じゃあ、態々休日に出掛ける必要もないですね」
「う、そんなことねぇって!遊園地とか、あと何だっ…、あ!動物園が出来たらしいしっ!」

知りえる限りのデートスポットを上げる六に仲原は冷めた視線を返す。
余りにも必死な六に、仲原は一つ大きな溜息を吐いた後、「晴れたら行ってやってもいい」と不貞腐れた様な声で六に言葉を返す。

途端に六は嬉しそうな顔をし、勢い余って仲原に抱き付こうとしたが、仲原は本を読んでいたにも関わらず身軽に避け、避けられた六は派手な音を立てて固いコンクリートの床へと激突した。

「あ〜ぁ、六〜、大丈夫か?」

アキヒの言葉に、六は死んだ魚の様な目でアキヒを見やる。

「アキさんには俺がだいじょーぶに、見えますか?」
「全く持って見えません」

返事を返すアキヒの目も心なしか光を宿していない様に感じられる。
オデコに擦り剥いた様な傷を作りながら痛いと擦っている六に、仲原が近付く。
病的なまでに白い指が六のオデコに触れ、フッと表情を緩めると「大丈夫か?」といつもの冷めた声ではなく、酷く優しい声音で尋ねた。

「…全然、だいじょーぶ」

その後、特に会話を続けるつもりもないのか、仲原は「そうか」とだけ返し、また読書に専念してしまった。
平常心の仲原とは裏腹に、六はその場にしゃがみ込み、胸の辺りに手を当てると制服をくしゃり、と掴んだ。





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