Novel

□掌
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菫はやたらと手を繋ぎたがる。
でも、僕は緊張が伝わりそうで手を繋ぐのが苦手だ。
だから、いつも少し困った顔をしてしまう。
それが菫には拒否しているように見えたらしい。

「なぁ、俺と手繋ぐの嫌?」
「違うんだ。あのー…」

いつだって肝心な所で言葉が出てこない。
それがまた、菫に誤解を抱かせる。
そんな自分が嫌で何でもないように振舞おうとすればする程空回りする。

「何でいっつも困った顔すんの?」
「だから、その、緊張するから…!」

何を今更、と言う様に菫が不思議そうに僕の顔を見た。
どれだけ一緒に居ても、不安は消えることなんてない。
菫が僕のことを嫌いだと思ったら、その瞬間にこの関係は終わってしまう。
だから、菫に嫌われたくないから一つ一つの行動に緊張してしまう。

「有糸、俺の手握ってみ」

すぐ傍にある手を緩く握ると、その手は僅かに震えていた。
菫は困ったように笑って、冷たい手で僕の手を強く握り返した。

「俺も緊張すんの」

拗ねたような口調で言われて、思わず笑みが漏れた。

「なーに、笑ってんだよ!」
「だって、菫ちゃん可愛いー」

固く繋がれた手を振り解くと、菫が不安げに顔を歪めた。
益々拗ねたように、ベッドの上に置かれた抱き枕を抱えて顔を埋めながら、喋り出した。
枕に言葉が呑まれて、くぐもった声が聞こえてくる。

「拒否されてるみたいで、ヤなんだかんな」
「ご、ごめん」
「もっと、手繋ぎたいし、ちゅーしたいし、えっちだってしたいの」
「ん。菫ちゃん、顔上げて?」
「ヤダ。カッコ悪ぃもん」

顔を上げない菫の後ろに回って抱き付く。
密着した部分から伝わる熱が心地いい。





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