Novel
□我儘キャット
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ペットプレイなんてAVを撮る上で珍しくもなんともない。
ただ、俺に違和感を与えた原因が、その相手が榛名じゃないってこと。
目の前の男は醜悪な顔と吐息で、気持ちいいとは言えない愛撫を繰り返している。
目を閉じ、榛名だと思おうと思えば思う程、少しの違いに嫌悪感にも似た感情を抱く。
「憲太君、気持ちいい?」
相手が榛名じゃない時点で気持ちいいはずがない。
現に俺のモノは行為が始まって数十分経つのに、勃つ気配がない。
それどころか萎える一方だ。
「どーしたの?」
男の与える刺激は愛撫とは言えない程身勝手な動きで、一々榛名と比べては、溜息を吐く。
それを俺が感じていると取ったのか、男は途端に嬉しそうな顔をし、執拗なまでに胸を弄り出した。
「気持ちいい?」
「気持ちよくなんかねぇよ」と蹴飛ばしてやりたくても、仕事だと思うとそれさえ出来ない。
ぼんやりと天井を見上げていると、突然男が蛙の様な声を上げた。
「下手糞が、どけ。憲太に触んな」
その声と共に、男がベッドから蹴り落とされた。
俺の視界に入りこんできた奴は、寒気がするほどの冷ややかな眼をし、怯えきった男を疎ましげに部屋から追い出した。
冷えた空気の中、榛名に目をやるとゆっくりと目が合った。
瞬間、瞳の温度が上昇したように思う。
冷えていた榛名の顔が、いつもの綺麗過ぎる顔に戻り、ふわりと笑って見せた。
「なんかさー、待望の裸エプロンも憲ちゃんじゃないと勃たないみたい」
「…は?」
「確かに可愛かったんだけど。憲ちゃんじゃない時点で萎えた」
「ちょ…何言って…?」
「俺とシたいでしょ?」
有無を言わさぬ声音に、頷くしかなかった。
どこからその自信は湧いて出てくるんだとも思ったが、勝ち誇った様な顔がやけに可愛かった。