Novel
□片言
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比較的都会と言われている湯煎に上京して約三年が経った。
主にメイドの派遣と、所謂コスプレと言われるマニアックな服装を製造する仕事に携わっている。
上京して数週間、ふらふらと職にも就かずに体を売って過ごしていた。
そんな時、今勤めている会社の社長に出会った。
「どうせ変態の相手をするなら、もう少し金になる方がいいだろ?」
口元を歪めて、綺麗な顔が魅惑的に微笑んだ。
そして現在に至る訳だ。
最近では社長に恋人が出来たらしく、口癖の様に「早く仕事上げねぇと」と漏らしている。
俺の上司の中里さんは最近胃痛に悩まされているらしく、仕事中もよく胃薬を飲んでいる。
「日高、勤務表だ」
胃を押さえながら中里さんが俺に勤務表を手渡した。
正社員というわけではないから、毎週渡される勤務表を見て、一週間の予定を立てる。
「あれ?俺今週、休み多いっすね」
「あぁ、新しい子が入ったからな。暫らくは楽が出来るぞ」
「へぇー、んじゃあ、ちょっと田舎でも帰ろうかなぁ」
「あぁ、たまには親御さんの所にも顔出してやれ」
俺と中里さんが話しをしていると、有城社長の声が聞こえた。
「今日は帰り遅いから、先寝てろ」
恋人からの電話か、と中里さんの方を見ると、やけに嬉しそうな顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「いや、社長も何だかんだ言って孝介さんにメロメロなんだなぁ、と思ってな」
「中里さん、メロメロって死語っすよ」
「…そうか」
一度だけ社長に「孝介さんってどんな人なんですか?」と聞いたことがあった。
その時の社長は酷く嬉しそうな顔をしながら、「不細工だけど、犬みたいで凄ぇ可愛い」と漏らしていた。
俺は社長は面食いで、綺麗な人が好きなんだとばかり思っていたから、心底驚いた覚えがある。