Novel

□紅印
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日本史の教師の声が室内を満たす。
しゃがれた声音が不快感を煽った。
オドオドと言葉を詰まらせる様が、アキヒの苛立ちを更に掻き立てた。

耳障りなその声が、やけに時間が経つのを遅くさせているような気がしてならなかった。
しきりに時計を気にするも、時計の針は僅かに歩みを進めているだけだった。

アキヒがこんなにも時計を気にするのには理由があった。
それは今朝届いた一通のメールが発端であった。

『今日、休む』

猛から届いた短いメールを何度も見返しては溜息を吐く。
猛のいない学校なんて、つまらない、と目線を窓の外に向けた。
頭の中は猛のことばかりで、日本史の教師の声など耳に届いていなかった。

「七原君…この答わかる?」

アキヒはゆっくりと視線を教師に向け、眉を顰めると、ある言葉を放った。

「センセ、俺、気分悪いから早退していい?」

心底調子が悪そうに胸に手を当て、小首を傾げて見せる姿は心なしか可愛ささえ感じさせる。
教師は慌てふためき、アキヒを保健室へと連れて行った。

「じゃ、俺、帰んね」

先ほどの体調不良はどこへやら、アキヒはにっこりと微笑むと教師にウインクして見せた。

「あ、七原君…え、ちょっと…!」
「あぁ〜、夏来先生、また逃げられたんですかぁ」

保健室から顔を出した不健康そうな男は苦笑いを漏らしながら、日本史の教師に話しかけた。
彼は呆然とアキヒの背中を見ながら、ハァと大きなため息を漏らした。





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