Novel
□紅印
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熱はそう高くはないと思うが、頭がくらくらした。
昨日の出来事が何度も頭を巡り、思考を停止させた。
『ね、七原君、好きなんだけど…』
帰りがけの屋上の階段から聞こえた言葉。
瞬間、心臓を掴まれたみたいに胸に鈍い痛みが走り、最後まで声を拾うこともせず逃げるように家路に着いた。
更に考えれば考える程熱を持つ不安が、猛の体調さえも崩していった。
ぐるぐると廻る嫌な考えを払拭するように機械音が室内に響いた。
携帯電話が着信を知らせる。
ディスプレイには、七原アキヒと表示されていた。
声が聞きたいと思う反面、別れを告げられたらと思うと、手が動かず着信を拒否するように布団に潜り込んだ。
やっと鳴りやんだ着信に溜息をもらす猛を嘲笑うように、二回目の着信が鳴った。
無造作に置かれた携帯電話にそろそろと手を伸ばすと、メールが届いていた。
おずおずとメールを開く。
『風邪大丈夫?たけちゃんが、心配で早退しちゃった』
ご丁寧にハートマーク満載のメールに苦笑いが漏れた。
なんだか妙な胸騒ぎがする、と立ち上がった瞬間に甲高いインターフォンの音が来客を知らせた。
生憎母親は買い物に出かけていた。
あぁ、そういえば、荷物が届くかもしれないから受け取っておいて、と言われたことを思い出す。
とぼとぼと玄関まで歩いていき、重々しくドアを開くと、一人の男が立っていた。
男は心底驚いた顔で声を掛けてきた。
だが、その声は徐々に遠ざかり、終いには何も聞こえなくなったかと思ったら、男の顔がぐにゃりと歪んで見えた。