Novel

□Just A Kiss
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昔から人混みは苦手だった。
沢山の人が行き来するだけに、気色悪い奴だとか思われていたらどうしようという勝手な被害妄想に駆られるから。

「心平、家、着いたよ」

ボーっと考え事をしていると、知らぬ間に八宵の家の前まで来ていた。
人のことをとやかく言える様ないい所に住んではいなかったが、外装からしてここも相当酷い。
八宵が鍵を差し込むと、ガチャリと金属質な音が耳に付いた後、重い扉が開かれた。
促されるままに室内に足を踏み入れると、気が遠くなる程の光景が広がっていた。

「う、わぁ、汚ぁ」
「失礼な、これでも綺麗な方なんだぞ!」

そうは言うが、玄関はお洒落な靴が縦横無尽に脱ぎ散らかされていて、更に奥へ進めば服の山が群れを成していた。
それだけでも片付けられない男なのだ、と分かるのに、追い討ちを掛ける様に汚いキッチンが目に入った。

「やーちゃん!台所あんな汚しよったら食中毒にかかるけん!」
「俺、料理しねぇもん」
「そういう問題とちゃう!やーちゃん、昔っから面倒臭がりやけん、どうせ、これも洗ってないんやろ?」

心平は言葉を発すると同時に衣服を拾い上げて、大量の衣服を洗濯機に放り込んだ。
ブツブツと小言を言いながら心平が部屋を片付けていく。
ようやく、座れるスペースを確保出来る位には片付いた。
ベッドに寝転んでゲームをしている八宵を横目に、心平は台所へと走っていって冷蔵庫の中を漁った。

「やーちゃん!全部、賞味期限切れとぉ!」
「あー、じゃあ、何か買ってくるわ」

コンビニ行ってくる、という八宵の服を引くと「俺も行く!あと、コンビニやなくてスーパーがええ」と言うと、あからさまに面倒臭そうな表情を返された。





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