Novel
□歌うたい
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通学路を歩いていると、息を切らせて七原さんが走っているのが見えた。
七原さんとは何度か面識があり、姫島さん以外で喋れる唯一の人だ。
「お!友成君〜!おはよ!ちょ、聞いて!」
俺と目が合うなり七原さんは速度を落とし、俺の横に並んだ。
首下に巻いたマフラーを少しずらし白い息と共に喋り出した。
「あんね、あなたのお姫様また寝坊ですって〜」
「へ?」
「朝さ、メール開いたら何て書いてあったと思う?」
喉が引き攣って返事を返せずに首を傾げた。
「悪い、今日午後からでるわ。そこまでいったら、もう学校来なくてよくね?」
七原さんの笑顔に釣られて俺も小さく笑って見せた。
「ん〜、友成君顔赤いね。大丈夫?どれどれ、お兄さんにみしてみ」
七原さんの冷たい手がオデコに当てられる。
「友成君〜、無理しちゃ駄目だって〜!絶対ぇ熱あるって」
「で、でも休めないんで…」
「あぁ〜、そっかぁ。んじゃ、ちょっと学校行って直ぐ帰っちゃいなよ」
「え、で、でも…」
「お兄さんが保健室連れてってあげるから」
そう言って保健室まで連れて来られると、保健医が面倒臭そうにこちらに視線を向けた。
「んー?どしたー?」
ずれた眼鏡を掛け直しながら尋ねてくる。
「センセー。この子熱あるから帰してやってよ〜」
「あー?じゃあ、早退届貰って来てちょーだい」
保健医は友成の様子を見る前にアキヒにそう言う。
「はいはい。友成君、何組?」
「1−Fです」
「あ、六と同じクラスなんだ〜」
「じゃあ、言ってくるね」と人のいい笑顔を浮かべて去って行った。