Novel

□ガラス越しの恋
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俺、伊倉奈義、二十三歳。
モデルなんてやって、生活を食いつないでる。
顔くらいしか自慢できるものなんてないし、それを見て喜ぶ奴らがいる。

コンプレックス以外の何物でもない女顔が、逆に読者の人気を掴んだだなんて、皮肉にも程がある。

外見しか知らない輩共は、俺がどれほど最低な奴かなんて知らない。
学生であった俺は、学校に何度か顔を見せる心理カウンセラーの女と毎回のようにセックスの日々を送っていた。

終に、卒業間際に子供ができたことを知らされた。
軽率な行動だったとは思う。
だが、後悔はしていない。
最初は確かに興味本意だった。
けれど、子供が出来る頃には、確かに愛があった。

だから、あいつが死んだ後も、子育てに奮闘している。
あいつは、俺よりも十歳も上で、完璧すぎるほどいい女だった。
その上、最後までカッコよく死んじまうもんだから、未だに新しい恋にも踏み出せずに居る。

初めて見た娘の愛らしさに、責任感と保護感を強く抱いたのを覚えている。
大事な愛娘だから、毎日働いては生活費と、娘のご機嫌取りの品物へと変わってく日々。

「ねぇ、なっちゃーん!どっか、いこ?」

舌足らずで、途切れ途切れに喋りかけてくる様は可愛い以外の言葉が当てはまりそうもない。

「ゆず!パパだろ?」
「なっちゃん。ね、いこ?」

幼いながらも上目遣いで話しかけてくる愛娘の将来が少し心配になる。
犯罪に巻き込まれるのではないか、と。
そう疑念したくなるほどの可愛さだ。

無邪気に笑いかけてくる我が子の頭を撫でながら、微笑んだ。
この子がいてくれるなら、他の愛なんて望む必要なんてないのかもしれない。





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