Novel

□四温の雨
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俺のいるクラスは、不良の巣窟と言っても過言ではない。
クラスの委員を決める時なんて、担任の先生は涙ながらにホームルームを開くくらいだから。
高校生にもなって委員会が決まらなくて居残りだなんて、何と言う羞恥プレイだ。
他のクラスの生徒は廊下側の窓越しにクスクスと笑いを残し、帰宅して行く。

「頼むよー!お願い!誰か図書委員してって!」

体育の教師でもあり、このクラスの担任、笠原完は発狂したように声を荒げている。
誰も挙手する筈もなく、ホームルームと合わせて約二時間が経った。
苛々し出す生徒に、担任は次々に指名していくが、誰一人「はい」とは言わなかった。
そりゃそうだ、このクラスに図書委員を求めること自体間違っている。
出来そうな奴と言えば、真面目ぶった俺か、ガンダムオタクの田所君くらいのものだ。
どちらが先に声を掛けられるかで図書委員をするか、しないかが決まるんだ。

「松嵜、お願い!図書委員やって」

朝の占いを馬鹿にしちゃいけない。
今日の最下位は蠍座、何をやっても上手くいかない日。
つまり、断ることすら無駄というわけだ。

「…分かりました」
「ホントに!?うわー、ありがとう!はい、皆さん解散ー!」

消沈した声で言うと、担任は満面の笑顔で御礼を言って来た。
担任の解散の言葉で一瞬にして教室内は誰も居なくなった。
日の沈んだ教室内で、『イエスマン』の自分に堪らなく嫌悪感を抱いた。

学校の外に出ても、周りは派手な格好をした男女ばかり。
露骨に厭らしい単語を吐く彼らの会話が耳に入るのが嫌でイヤフォンを耳に付け、大音量で音楽を流した。
家に帰れば帰ったで、母は更年期なのか毎日の様に鬱の症状に悩ませれているし、そんな母を見て父は疲れた、と漏らしている。
どこに居たって安らげる場所などないのだ。





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