Dream・カルマRain
□カルマRain 宴
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帆をたたみ、ゆったりとその巨体を波に任せた白鯨の背で、大杯〈おおさかずき〉を傾けて甘露を飲み干す強者達は、誰もが底抜けに陽気だった。
今夜はマチの為にと、宴が開かれた。甲板ではコックやサッチが作った料理が並び、白ひげやクルーの笑い声が絶えない。唄を歌い踊るものや、腕相撲で力比べをしたりする者まで様々に楽しんでいる。
マチは余りの騒ぎに呆気にとられてしまっていた。両隣にはマルコとエースが座り、その周りにはハルタ、ビスタ、イゾウ、サッチが囲んでいる。
エースはマチの隣で料理の説明をしながら口にせっせと物を詰め込んでいる。それを横目にマルコが呆れた様に溜息を零し、小さめの皿に色々な料理を小分けに盛って「エースが隣に居る時はさっさと食わねえと無くなっちまうよい。」と、マチに手渡してやる。
それを受け取ったマチが
「……ん。」と、小さく頷きちまちまと食べ始める。
そのやり取りを見たイゾウが「……マルコ、保護者ぶりがえらく様になってるじゃないか?」と、からかいを多分に含んだ視線を向ける。
それに酒を飲みながらジロリと睨みをきかせるマルコに、
「こわいねぇ〜」と苦笑いして肩を竦めた。
そんなやり取りをしていたら近くで『ガシャン』と何やら衝撃音が聞こえた。
……また、エースかよい。
と、食事中に突っ伏して寝息を掻いているエースを、何時もの事だと皆も気にせず飲み続けていたが、隣のマチは小さく肩を揺らし驚きの余り動きを止めてしまったようだ。
それにマルコが安心させるように説明した。
「大丈夫。寝てるだけだい。何時もの事だよい。」
「そーそー。コイツ食ってる時寝ちまうの癖なんだよな。」とサッチがエースの頬をつつきながら話している。
そう言った後、正に『固まる』とはこの事か、と思うほどその場の全員が固まった。
「…私の弟もよく食べながら寝ていた。」と、マチがエースを見ながら微かに微笑んだからだ。
一瞬静かになった場に、マチが小首を傾げて周りを見た。
我に返った一同がごまかす様に慌てて何やら話し始めた。
やがて、宴もたけなわ、甲板は酔い潰れて高鼾を掻いたり、まだチビチビと飲んでいる者達で、すっかり静かになっていた。大半の者達は明日何かしらの役がついているからと、自室に戻っていった。
そんな中マチは喧騒を一人離れて、船縁に肘を着き白ひげから手渡された赤く染まった《黄金蝶》を見詰めていた。
なんだか不思議だった。
人生を振り返ったり、これからの事を考えている自分が。
マルコに会って此処に連れて来られてから、自分の今までや、これからが塗り替えられてしまった。………そんな気がした。