Dream・ファントムPain2

□ファントムPain 嫉妬
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朝、どうにかこうにか自分の欲を押さえつけ寝付いたキッドは飲みすぎてダルい体を引き摺って食堂に辿り着く。

何がなんでも今朝は食堂に行かねばならなかった。

何故なら、昨晩の文句を言ってやらなければ気が済まないからだ。


「ちっ、アイツ…寝坊かよ」

二日酔いならざまぁみろだが、あのザルの様な女にそれは無いだろう、と何時ものソファーに腰を降ろす。向かいではキラーが何時もの様にニュース・クーを読んでいた。


「キッド、サラはどうした?」

「あぁ、今日はまだ寝てたから置いてきた。起きたら来るだろ。」

キッドのその言葉にキラーがフッと笑いを溢した。

「………何だよ?」

「いや、お前もそんな気遣いを人並みに覚えたか、と思ってな。」

「別に俺はっっ!」

「『俺は』?なんだ?」

「何でも無ぇ、…とにかく!…お前らがうるせぇからそうしてんだろが!」

「はい、はい。」

「返事は1回!」

「…お前は俺の母親か?」

「違ぇわ!!船長だわ!!」

そんなキラーとのやり取りが一段落した頃、漸くサラが食堂に顔を出した。

「……おはよーございます。」

その声にキラーはおや?っと思い顔を上げた。

「……おはよう、サラ。…どうした?体調でも悪いのか?」

キラーのその問いにも彼女は俯いたまま返事をする。

「…大丈夫です。」

そう言って曖昧に笑ってキラーの横に腰を降ろした。

「あ?……おい、お前…」

何でキラーの隣だ?、とキッドがサラに声を掛けようとした時ダリアがキッドの隣にどっかり座り込む。

「……あーーー……、流石に体がダルいわぁー…」

と、キッドが飲みかけていたコーヒーをぶんどる。

「……甘っっ!シロちゃんコーヒープリーズ!ストレートで!」

すると、厨房の奥からシロの元気な返事が聞こえてた。

「『ストレート』って何だよ?ブラックだろうが。」

サラの態度が気になりつつも、最早お決まりの様にキッドはダリアに悪態をつく。

「通じてるんだからどっちでも良いでしょ?つくづく細かい男ね。」

「テメェは大雑把過ぎんだ!大体なぁ、ダリア!そんな態度オレにとって良いと思ってんのか!?夕べ…」

「あぁ、ハイハイ、どうもありがとう ございました(棒)」

「くっ!最後まで聞けや!…部屋まで運ばせて相手させるってどういう了見だ!しかも既にベロンベロンだった癖にっ…」

ガチャン!!

言い合いがヒートアップし始めた頃突然サラが立ち上がった。
彼女にしては荒々しい立ち方だっただけにテーブルの上の食器が揺れた。

「………………。」

「………どうした?」


驚いてキッドはサラに尋ねたが、

「……何でも、ありません。私、洗濯物集めてこないと……」

そう言って俯いたままの顔をキッドが伺うことの出来ないままサラは食堂を出ていってしまった。


後には殆んど手付かずの朝食が残されていた。





……『相手』って!

……一体何の!?

何なの!?何!?

クルー達の洗濯物をかき集めながら頭の中は、キッドとダリアの先程のやり取りの事ばかりが回っている。





昨晩キッドを追って見たのは、言い合いながらも楽しげに呑んでいる二人の姿だ。

あの食堂の、

《特別》なソファーに二人並んで座り、今朝の様にキッドのグラスに口をつけるダリア。


「……『ダリア』……」

わかっている。これはつまらない《嫉妬》なのだ。

キッドと楽しげに言い合える彼女に。
キッドが気安く名前を呼ぶ彼女に。


「冷てっ!」


突然聞こえた声にハッと意識を戻せばそこにはヒートのドアップがあってサラは思わず仰け反った。

「ヒート、さんっ!?」


洗濯物の水が飛んだ頬を拭いながらヒートがニッカリ笑った。
いつも人を喰ったような笑みを浮かべる彼にしては珍しく屈託のない笑顔だ。

「悪い、吃驚したか?」

「あ、こっちこそ。お水飛ばしちゃってごめんなさい…何かご用でしたか??」

「いや、お嬢が親の仇みたいに洗濯してるからよ?声掛けたんだが…」

そんな態度だったか、とサラは 分かりやすい自分に軽く凹む。

「……あぁ〜……いや、そうじゃなくて…」

言葉を濁すヒートにサラは小首を傾げる。彼が何かを言い淀むのもまた、珍しいことだからだ。

「ヒートさん?」

頬を一掻きした後、更に一息入れてからヒートが再び話始める。

「…何か抱えてんなら、言わねぇとわかんねぇぜ?頭はよ。…あの人、《女心》ってのが全然だから。」


いつも飄々とした態度で、歯に衣も着せぬ物言いのヒートがそんな風に自分を気遣ってくれるなんてサラはちっとも考えていなかった。

この船に来た頃は、キッドを見くびるなと、冷たい視線を向けられた事もあった。

普段のイメージとのギャップにそれからは少し苦手意識もあったその人は、自分をこんなにも見て居てくれたのだ。


仄かな優しさが、サラの心を解して、それと同時にホロリと涙が溢れた。

「…ひっ、ヒートふぁん…」

鼻声でグシグシ言い出したサラの頭にポンっと手が跳ねる。

「シロの為に頭に喰って掛かったお嬢は何処行っちまったんだ?」

「こごにっ、いまずぅー…あの時は、ごっ、ごべんなざいぃぃぃ」

「くっ、はは!何だ?そのしゃべり方!…わーかったから泣き止め?な?」

ごしごし目元を擦るサラをヒートは笑いながら頭を撫でてやる。

…それにしても、触り心地良い頭だなぁ、

なんて呑気に考えながら。


なで、なで
なで、なで


それはサラが泣き止むまで続けられた。
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