Dream・ファントムPain2
□ファントムPain 連鎖
1ページ/2ページ
ジリジリと容赦なく照りつける太陽を、目を細めて見上げた少年が顎を伝う汗を拭いながら小さく溜め息をつく。背中に背負った袋がその重みで汗でジットリと張り付いている。
「おーい、シローー!」
呼ばれて振り返れば、見慣れた先輩クルーが通りの向こうから手を上げて駆けてくる。
「悪い、手間取った!」
「いえ、俺も今来たばかりです。」
そう言って集合場所に決めていた小さな喫茶店のテラス席に腰を掛けるキッド海賊団買い出し班2名。残りの1名はまだのようだった。
テーブルに備え付けられたパラソルの影に入り、幾分か和らいだ暑さに二人でホッと一息ついた。
「しかし、しけた街だぜ!」
言いながら頼んだソーダを早くも飲み干してしまったのか、グラスに残った氷をボリボリ噛み砕きながら足元に降ろした袋を苦々しい顔で見つめている。
彼もまた自身と同じ様に苦労したのだろう、その時を思い出してシロは苦笑いを浮かべた。
白い砂浜に、カラフルな南国情緒たっぷりの海。しかしそれらを有する島の街はとてもじゃ無いが愉快な街とは言えなかった。
静まり返った街は閑散として、覗く店の商品も満足に揃ってはいなかった。お陰でリュック一袋を一杯にするのすら困難だった。
街の住人達の目も精彩さを欠いている。
それは南の海出身の者が多いキッド海賊団には奇妙に映った。
南国特有とも言える陽気さや、活気がまるで感じられないからだ。
「さっさと、こんな島出て次の島に行きてぇよ、」
まったく、と今度はストローを咥えながらブツブツ言うこの男も南の海出身だったか。
そうこうしてる内に最後の一人も合流して、漸く船に戻るかと歩き出す。
が、ふとシロが店の前で立ち止まった。
白にブルーのラインがぐるりと一回りしている楕円形の皿。他にも大小の皿が幾つか置かれている。
……お皿…買っといた方が良いかも?
最近毎朝の様に盛大に皿を割るサラを思い出して、シロは一人小さく笑った。
「おい、シロっ!置いてくぞー!」
「あっ、ハイ!」
次の島でサラさんと行けば良いか、
……その方が喜んでくれるかも。
そう思い直したシロは慌てて先輩の後に着いていった。
「……なっ、…一体……」
船にたどり着いた3人は余りの惨状に言葉を失っていた。
確かに数時間前には元気だったクルー達が砂浜にうち倒れていたのだ。皆一様に苦し気に唸っている。
シロは慌てて走り出す。
近くに倒れたクルーに声を掛けるが、答えは返ってこない。
「なんでっ、……」
小さく疑問を口にした後、シロは素早く辺りを見渡す。
「オ…オカシラ…」
そう思い至った瞬間シロは船に向かって駆け出した。
「カシラッ!!」
飛び込んだ部屋にはぐったりしたクルーを二人担いでいる男。
「キッドのカシラッ!」
思わず駆け寄ったシロは部屋に寝かされたクルー達に驚愕する。
「一体何があったんですか!?」
なんでこんなことに、呆然とするシロにキッドは構わず指示をだす。
「話は後だっ!!外の奴等を全員食堂に運び込め!!」
しかし、未だにシロは突っ立ったままだ。
「おいっ!!聞こえてんのか!?」
キッドがもう一度怒鳴った後、漸くシロは動き出す事が出来た。
「はっ、はい!!」
バタバタと部屋を出ていくシロと入れ違いにキラーが部屋に入ってくる。
「どうすりゃ良い!?」
そう問い掛けるキッドにキラーがボトルを投げて寄越した。
「それを飲ませろ!」
「なんだコレ!?」
ガチャガチャと何本も液体の入ったボトルを寄越すキラーにキッドが訊ねれば至極簡単な答えが返ってくる。
「水だ。」
「水ぅ〜〜!?」
そんなんで治るのか?疑問は浮かぶが今は聞いている暇は無い。
「とにかく飲ませろ、そして吐かせるんだ!」
そう言いながらキラーは既にクルーに飲ませ始めていた。
横たわるクルーは一様に青ざめた顔で苦し気に呼吸を繰り返している。水を飲ませようとするが噎せて上手く飲み下せないようだ。
ゲホゲホと咳き込むクルー達を見渡しながらキッドは焦りを募らせていた。
「くそっ、」
なんでこの船には船医が居ないんだ、と責めてみた所でそれは全て己の責任だ。
必要なのは分かっていたが、何だかんだとここまで誤魔化しながらもやれてきた。
病気やケガで死ぬ奴はそれが運命なんだと、弱い奴は要らないと心の何処かで思っていたのが正直な気持ちだ。
だが、今は違う。
サラやクルー達が倒れた原因も分からず、頼れるのは読んだことも無いような本だけだ。
大切な者が何もしようが無いまま死んでいこうとしている事にキッドは悔しさを感じた。
無力な自分は、クルーの一人も助けてやれないのか。
船長としての責務を自分は本当の意味で考えたことがあっただろうか。
細かなことや、面倒なことをキラーやシロに丸投げにしていたのではないか。
愚かな事に、キッドは漸く自分一人で海を渡ってきたのでは無いと気付いたのだ。