Dream・ファントムPain2

□ファントムPain 相愛
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どんな時でも思い浮かぶレイの姿。

初めて会った時の少年の笑み。

何処の誰とも知れない自分を育ててくれた暖かな手。

そして最期の声。

思い出さない日なんて無かった。



『彼女が好きなんだ。もう暫く、此処に…』

それが後に、彼自身を死に追いやった。

だが、そうサラに話したレイの気持ちを今ようやく理解出来た。

キッドを好きになって、薄れてゆくレイの姿に恐怖した事もあったけれど。

キッドを好きになったからこそ、初めて彼の死や、人生が決して悲惨な事ばかりでは無かったのだと思えた。






「チッ…つまんねぇ事を…」

心底うんざりしたような顔でキッドが顔を背ける。
足元の落ち葉を踏み鳴らしながらサラから離れていく。

行ってしまう……

サラは大きな声で叫んだ。

「わ、私が好きなのはオカシラさんですっ!!」

慣れない気持ちは稚拙な言葉でしか音を出せなかったが、その声にキッドが信じられない想いで振り返った。


「……別にオレに合わせなくても、船には置いてやるよ…それとも何か?寝言で呼ぶ程好きだった『レイ』もどうでもいいってか?」

「レイは…レイはずっと此処に居ます。」

その言葉にキッドはふん、と鼻を鳴らす。

だが、サラはその碧い瞳をキッドから反らさなかった。

「忘れたりなんて出来ない。」

そしてきっぱりと言い切る。

「……好きに」

好きにしろ、そう言ってキッドはこの話を終わらせようとする。

耳が、胸が、ずっと痛い。

彼女の口が『レイ』とこぼす度に。

なのにこんな時にも彼女は思い通りにならないのだ。

キッドのそんな痛みも知らず言葉を続けるサラにキッドはうんざりした。

「…だってレイは家族だから!」


「分かったっつってんだろうが!ソイツはお前の家ぞ………く?」

…ん?今、なんつった?

「お母さんみたいに口うるさくて、お父さんみたいに厳しかった。でも、お兄ちゃんみたいに優しくしてくれた。ずっと私を一人で育ててくれました。………でも、お互い1度だって《そんな風》にはなりませんでした。……オ、オカシラさん、を…想うみたいには…………」


余りの衝撃にキッドの頭の回転が付いていかない。

つまり、勝手に勘違いして、ぐるぐるぐるぐる、悶々悶々と…………

「……………オレは、《バカ》か?」

小さな独り言に『え?』、と問い返すサラをじっと見下ろせばバッチリ視線の合ったサラが頬を染めて俯く。

途端にキッドは何時もの調子を取り戻した。

「ほ〜…、で?お前はオレが何だって?」

その言葉にこれ以上無い程赤くなるサラに、キッドは自分の箍〈たが〉の外れる音を確かに聴いた気がした。


「きゃあ!!??」

初めて船に乗せた時の様に無遠慮にサラを抱き上げたキッドは、彼女の驚きなど気にもせずにズンズンと来た道を引き返した。






「出航するぞ?キッド」

「おう。」

甲板に纏められた木箱や樽を数えるキラーの横をサラを抱えたまま通り過ぎるキッドの口許は緩みっぱなしだ。

扉を足で押し開けながらキッドはおもむろに振り返った。

「…それから、部屋に人を近付かせんな。」

そう言ってそそくさ居なくなったキッドにキラーはやれやれとため息を吐いた。

「………聞いてたか?出航だ。」

甲板に居たクルー達は皆一様ににまにました笑みを浮かべていた。









乱暴に閉められた扉に背を押し付けられながらサラはキッドの唇を受け止める。

息も継げない程の熱にサラの身体が火照る。

船が波を切る飛沫の音も聴こえない。



いつも自信満々で人を喰ったように笑うキッドの薄い唇が、サラの滑らかな唇を食んだ。そして直ぐに侵入させた器用な舌先でサラの舌を搦め捕って自分の口腔に誘う。吸われた舌先がじん、と痺れた。

「ん、…」

肩先に回されたサラの手が、キュッとそこを握る。うっすら開けた目で彼女を見つめれば上気した頬にキッドの熱は更に上がった。

今までこんなにその《行為》に執着した事があっただろうか?


これまで抱いていた女達の真っ赤な唇はいつも妙な味がしたし、身体からはきつい香水の匂い。
女などそんなものかと思っていた。下手をすればキスすらせず、前戯すらそこそこに後は自分が気持ちよく果てられればそれで良かった。

だが、彼女の唇は滑らかで柔らかい。
零れる吐息はどこまでも甘やかで、自分とのキスに反応して手を握る動きだけで身体が悦びに震える。

貪り、喰ってしまえ。

そう急かす本能をキッドは必死に押さえ込んだ。

眉を寄せるサラの顔に欲情しつつも、息継ぎが必要だと言い聞かせて唇を離すと蕩けきった彼女の瞳にキッドが揺れていた。

「…あ、…ン……オカシラ…さ、」

物足りなそうに呟くサラの声にキッドはフッと嗤った。

見つめ合ったまま顔を近付けるが、唇が触れない。思わずサラが切なそうに吐息をつけばキッドがそのままの距離で話し掛ける。

「…バカ女、こんな時くらい、名前で呼べねぇのかよ?」

言葉に合わせて動く唇がほんの一瞬彼女の唇に触れれば、サラはその甘い命令に従うしかない。

「………き………キッド、さん」

鼓膜を通ったその音がキッドの理性を打ち砕いた。

「んう、」

より深く交わり戻ってきた熱にサラは翻弄された。そしてうわ言の様に自分も名前を呼んで欲しいと懇願する。

キッドはそんな彼女の耳朶を噛んで直接吹き込んでやる。


「……、」


が、それは声になる前に無粋な音に掻き消された。



「お頭っ!!大変です!お頭っ!!」

呼ばれる間も扉が乱暴に叩かれる。そこに凭れ掛かっていたサラの身体がその度に小さく振動した。

ちっ、と忌々しげに舌打ちしたキッドがサラを壁に避けてやる。

「そこで話せ。」

短く返したキッドに外に居るシロが驚きの言葉を発した。


「海軍です!それにっ、あっ《赤髪》もっっ!!」
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