Dream・ファントムPain2
□ファントムPain 宣誓
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キッドが灯した快楽の炎がチリチリとサラの表皮を走る。
……あれが、『イク』って事?
知識としては知っていた。ただ自分には無縁だった。
キッドに触れられた肌が、今は発熱している様に熱い。
でもその熱が更に彼女を追い込んだ。
身体の奥の奥がじくじくと疼いていて、腹の中心より少し下がきゅんきゅんと何かを欲している。
『お前、覚悟しろよ』
そんなキッドの声にサラは頭の中で叫んだ。
…覚悟なんていくらでもするからっ
早くこの疼きから解放して欲しい。
そんな気持ちでキッドを見つめると、この行為に似つかわしくない程眉間に皺を刻んだキッドが彼女の足を割り開いた。
ぐっと覆い被さる様にかがんだキッドの息は荒れていて、カチャカチャとバックルを鳴らしたかと思うともどかし気にベルトを引き抜く。
ジッパーを下ろすのにも気が急いている自分にキッドは舌打ちした。
窮屈な場所から解放されたそれを直ぐ様サラに捩じ込んだ。
ぐっ、と分け入って来たかと思うとそれは圧倒的な質量と熱を持ってサラを貫いた。
「……ンやぁぁっ……」
押し出される悲鳴の様な喘ぎをキッドが口付けに呑み込んだ。
お互いハァハァと息苦しそうにしているのに、舌を貪る事を止められない。
最後にチュッ、と音を発ててキッドがサラの小さな舌を吸いたてた。
「っこの………バ、カ女、…挿れただけでイク、ヤツがあるか…っ、」
…ハ…ッ、…ハァ…勘弁しろっ、
とキッドは堪えるように奥歯をギリギリ噛み締めた。
その間もひくひくと小さな痙攣を繰返しながらサラはキッドを締め付ける。
両手を握り締めて口元にギュッと宛がい漏れる息を押し込める彼女の震える肩を宥〈なだ〉めるように撫でてやる。
「…ひ、ぁ」
そんな小さな刺激にも声をあげた彼女は、もうどこを触ってもダメらしい。
同時に膣内〈なか〉がきゅんと絞まるのにキッドは眉根を寄せる。
さっきの締め付けに早くも吐精しそうになったキッドも覚悟を決めるしかなかった。
長い間抱けなかった女を漸〈ようや〉く抱ける。
だから全てを貪り尽くすつもりだったのに。
ゆっくりと味わい尽くしたい願望と、彼女の中で早く果てたい欲望がせめぎ合う。
そんなキッドの思考を呑み込む様に彼女の膣内〈なか〉がうねった。
複雑な蠢きにキッドがハッ、と息を吐く。と、するりとサラの細い指がキッドの頬に宛がわれた。
「……、どうしたっ」
言いながらも浮いた汗が背筋〈せすじ〉を滑った。
「、ん、キッド…さんっ、…あ…欲し…っ」
熱に浮かされたみたいに組み敷かれたサラが首を伸ばしキッドの唇を求めた。それに応えながらもキッドは自分を求める彼女に堪らなくなり恥骨に押し付けるように腰を入れる。
途端に甘い声が直接唇から吹き込まれてキッドの脳髄を痺れさせた。
そこからはもう止まらなかった。力強いストロークでサラを揺さぶり続ける。快楽に浮く細腰を押さえ付けて彼女に己を刻み付ける。
サラの五感はすべて、恋しい男からの至上の快楽が押し流した。
感覚は意識から剥離して、四方に飛び出していく。まるで宇宙に投げ出されるみたいで怖くて目の前の男にしがみつく。しがみついた男はサラをガッチリと抱き止めて、更なる熱を注ぎ込む。
《赤色巨星》
キッドの様に赤く燃え盛り、空に浮かぶ星の最終ステージ。そこに向かう前の膨大なエネルギー放出、そして最後に迎える超新星爆発。
キッドに内包されるマグマの様な熱がサラを宇宙〈そら〉に押し上げる。
彼女の背に確かにあった陸も、生い茂る木々も全てが流星の様に背後に流れた。
事象の地平線に向かう最中、サラは滲んだ瞳にそれを捉える。
天に浮かんでいた星々が全て自分に堕ちてくる。
「……ぁ、…空が…空が、堕ちてくる…」
快楽の濁流がサラの子宮から全身に押し寄せる。身体の内側からキッドと同じ熱が広がって収まりきらずに放出された。
サラの瞳が滲んで揺らめいた。
彼女の内側は優しく、どこまでも貪欲にキッドを深い場所に誘う。
キツい締め付けと、ゆらゆらとした蠢動がキッドの果てを促す。
堪らず1つ、腰を穿った。
ズン、と重い衝撃がキッドの背筋を震わせた。
きゅう、と僅かに力の入った己の首に回された彼女の腕の中からそっと窺えば、熱に浮かされた為の生理的な涙がこめかみに伝うのをキッドは思わず口付けで受け止めた。
そんな小さな刺激にサラの唇から零れた言葉にキッドは応えるように耳元に唇を寄せた。
彼女の瞳は冴えた空気にどこまでも輝いて、その瞳は天球その物の様に煌めいている。
そのブルーは海の碧にも、空の蒼にも見える。
しっとりと濡れた白い肌はそれ自体が発光しているように暗い夜に浮かび上がり、金色の美しい髪が月明かりに今は銀色に艶目いていた。
『空が堕ちてくる』、か。
言い得て妙なその言葉にキッドは胸の内でフッと息をつく。
……あぁそうだな、まるで…
「…星、抱いてるみてぇだ…」
甘く溶けた声を吹き込まれてサラは一気に高みに昇る。
ぎゅん、と強烈に締まった内壁に押し出されそうな自身の楔を、キッドは抗うように最奥に捩じ込んだ。
「ーーーーーっく、」
腰骨から脊髄に、そして鍛えられたキッドの鋼の筋肉までに絞る様な快楽。
声にならない獣の咆哮をキッドは上げた。
しかし、その放埒〈ほうらつ〉の間もキッドの腰は止まらない。それ以上は無いのに、サラの最奥を抉るように打ち付けられるそれにイッたばかりのサラがいやいやをするように頭を振る。
「…ハッ、…ダメ、だ。…逃げんなっ…」
逃げをうつ細腰を己の下肢で押さえ込みながら一際大きく、擦り付けるように打ち込む。その衝撃にサラはやっと引き始めたさざ波がまた押し寄せて来るのを感じる。
「…やぁっ、ぁ、っまた…」
また啼かされて、小さくイッた。
サラの震えるとば口にぴったりと合わさったキッドの腰がぶるりと震えた。
「………………っハァ、」
一際大きく息をついたキッドがサラの震える肩に額を落とした。
ずるり、とモノを引き抜く時、小さな声を上げたサラに新たな情欲を感じてキッドは一人苦笑いを浮かべた。
今までこんな風に始めから最後まで、まるで離れるのが耐えられない事のように肌を触れ合わせて抱いた女がいただろうか?
額に、背中に、珠のような汗を浮かべて押し寄せる射精感を我慢しながら抱いた女が………
いや、そんな女は誰一人居ない。
唇を触れ合わせることも無ければ、丁寧に愛撫を施すことすらキッドにしてみれば稀な事だ。
それなのに、
抱き締める身体の温もりが気持ちよくて、最後の1滴までその最奥に注ぎ込みたかった。
しどけなく横たわったままのサラを横抱きに膝に抱えて額に浮かんでいる汗を拭ってやる。
それだけで、ひくんと身体を震わせるサラに途方も無い感情が沸き上がる。
…これ以上、誘ってくれるな。
お前を壊してしまうから。
己の肩口をするりと力無いながらも撫でたサラの手をキッドは徐〈おもむろ〉に掬い上げた。
彼女の掌に刻まれた標〈しるし〉
その傷に昏〈くら〉い欲が満たされたのを感じたのは何時だったか。
それでも今はその傷に胸が痛むのが勝っているのだ。
『ただ大切に、愛してやれば良い』
キラーの言葉が胸をより痛ませる。
「……オレは、…」
ポツリと溢されたキッドの珍しく小さな声にサラはゆったりと瞳を向ける。
熱に潤んだままの瞳が、声とは裏腹なキッドの強い視線と絡まった。
掬い上げたサラの手をぎゅっと1度確かめるように握ったキッドは、今度はハッキリと告げた。
「オレは、今感じてるこの気持ちが恋だとか愛だとかなんてモンかは知らねぇ。だがお前にだけは誓ってやる。……お前が死ぬ時は、オレが死ぬ時だ。」
そう言って、サラの掌に刻まれた標に口付けを落とした。
以前、宣誓した言葉とは全てが違った。
キッドが死ぬ前にサラを殺してくれると約束した言葉とは似ているようで、だが全く真逆のその言葉。
お前が死んだら自分も生きてはいけない。
……だから、《死ぬ時は一緒だ》。
そんな想いが込められた言葉。
新たな誓いは、紛れもなく愛の誓いだ。
だが痛みさえ伴うような、獰猛なまでに彼女を欲する心がキッドには恋だとも愛だとも判別がつかない。
巷で聞く恋や愛は、もっと穏やかで優しい物の筈だ。
だが、お前がそれでも良いなら…
…オレのつまらねぇ《心》なんぞくれてやる。
お前がその血の1滴までオレの物だと誓うなら。
…オレの《命》もくれてやる。
その炎が、いつか彼女を燃やし尽くしても構わない。
その時は、オレも燃え尽きてんだろ?
キッドの心の問い掛けに応えるように、サラは滲む瞳でただ優しく微笑んだ。
キッドの大きなコートと、その身体に包〈くる〉まれてそのまま二人は寝入る。
小さく身動ぎした幸せそうに眠るサラの肩からほんの少し赤いコートが滑り落ちた。
夜風に曝されたその肩口に浮かんだ刻印は誰に見咎められること無く消えた。
それは間違いなく、昔滅んだ筈の《イスラフィル》の刻印だった。