Dream・ファントムPain2

□ファントムPain 発露
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「キッド…お前また何かしたのか?」

心底呆れたような声音のキラーの問い掛けに、ビキッと青筋をたてたキッド。

「何でもかんでもオレの所為にするな。オレは何にもしてねぇ」

…お前らがアイツを休ませろってうるせぇからな!

とは、頭の中だけで吐く。

「…だったら何もしてないのが理由だな。」

「……………は?」

「つまりは、どっちにしろ原因はお前だ。」

言い切ってキラーがニュース・クーをバサッと閉じて立ち上がる。


「こじれる前に何とかしろ。」

言いたい事だけ言ってさっさと行ってしまったキラーにキッドは文句を言う隙もなかった。



……だから、探した。

百歩譲って謝ってやっても良いか、と思って探した。

何が気に入らないのか全くっ、これっぽちも分からないし、何故自分が悪いのか、納得いかない、が!

……探してやった。

そしたら当の本人はヒートに頭を撫でられて和んでた。


…………もう、知らねぇ!!俺は知らねぇ!悪いのはアイツだっ!


元々はどっちが悪い、なんて話でも無いのに男と女は拗れるものだ。

好きでやってンだからほっとけ、と。

犬も食わない痴話喧嘩が始まるのだ。



「………何してる?」

キラーの声に頬杖をついたままキッドが胡乱〈うろん〉な目付きで答えた。

「はぁ?いつも通りミーティングやんだろ?ってか、遅ぇぞキラー」

至極全うな返答だが、いつも待たせてばかりのキッドに『お前が言うか』と言いたい。

が、

「……スマン」

形ばかりの謝罪をして大人なキラーはさらっと流してやる。

食料の備蓄量や次の島で売るべきもの等の選定や、航路等の話をしていると密かにサラの歌声が聞こえてきた。

キラーはいつも通り、窓を開けようと立ち上がるが、キッドがそれを止めた。

「……開けんな。」

ピリッと走った緊張に、キラーが元の椅子にゆっくりと座る。


視線を合わせないキッドに、たっぷり間を開けてからキラーは呟いた。


「……空気が悪いな。」

「何だよ。」

「別に。」

「だから、何だよ!?」

「………閉めっぱなしで風が通らないから、空気が悪い、と言っただけだ。」

「〜〜〜話は終りかっ!?」

こっくりと頷くキラーにキッドが舌打ちしながら出ていった。

一人になった部屋で、漸く窓を開けるとサラの歌声が細く震えて聞こえてくる。

「…ちゃんと聞けば分かるだろうに……」

サラの歌は何時だって正直だ。聴く者の心に染み込む歌声は、切なく何かを求めている。



夜、何をするでも無く甲板で海を見る。口をつけたビールは既に少し温い。

どうにも居心地が悪くて、今日は殆んど部屋に帰っていない。

キッドは汗をかいたビール瓶を苦々しい気持ちで見つめてから、またそれを一口飲んだ。

「……不味ぃ」

「あんたの紅い髪って夜でも目立つわね。」

突然掛けられた声に振り返れば、そこにはダリアが居た。

「ほら、」

差し出された手には同じビールの瓶。だが、まだ冷えている。

「テメェにしては気が利くな。」

「…あっそ、要らないのかぁ。」

余計な一言に、ダリアがひょいっとその手を引っ込める。

「おいっ!ダリアっ!」

寄越せ、とばかりにキッドが冷えた瓶を引ったくった。

その時だった。

ひゅん、と風を切る音。
次いで、


「がっっ!」

キッドの顎にヒットしたのはこれまた同じビールの瓶。

目の前のダリアは驚いた顔で瓶が飛んできた方を確認した。

「えっ、サラちゃん?」

キッドも顎を押さえながらそちらを確認する。

涙目でこちらを睨むサラは目が合った瞬間、踵を返して走り去った。




「あの、っバカ女!!」
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