Dream・カルマRain
□カルマRain 虚
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【………カチャ、カチャカチャ………】
…ん、…何の音…?
【…パタパタ……カチャン……】
…人が…いる。…あぁ、そうだ。母さんだ。いつも通り朝ごはんを作ってる。…きっともうすぐ、父さんが……起こしにやってくる。…でも、まだ眠いし………身体が思うように動かない…よ……
フワフワとした思考の中で家族を想う。
その時、頭を優しく撫でる感触に少しだけ意識が浮上した。
…父さんが…起こしに来た………
それでもやはり体が重く、酷く辛い。
ゆっくり瞼を押し上げれば、そこには此処数日で見馴れた顔があった。
「……………!」ぼんやりとした思考が一気に覚醒した。
ガバリと起き上がれば、肩の傷の痛みが全てを思い出させた。
「あ……??」
「親父と話した後、倒れちまったんだい。俺が此処まで運んだ。」
不機嫌を隠さず、そう話すこの男は何と言う名前だったか。
……確か……
「…マル…コ」ボソリと口に出してしまった。
しまった、口に出すつもりは無かったのに!
ハッとして、口をつぐみマルコを見た。
「………な…なんだよい。」
見ると、男は酷く狼狽しているようだった。そしておもむろに皿を突き出してきた。
「食え。サッチが作ったオートミールだよい。」
……サッチ?……『よい』?……
マチはまだ何だか上手く頭が廻らない。今の自分がどういう立場なのか分からない事が一層頭を混乱させていた。
聞き馴れない名前や、男の妙な語尾にばかり思考が捕われる。
と、なかなか皿を受け取らないマチに痺れを切らしたのか男が膝の上に皿を放る。
幸い柔らかな布団のお陰で中身が零れるような事は無かったが、置かれた皿をぼんやり見つめていると、
「毒なんか入ってねぇよい。」言った後、さっさと部屋から出て行ってしまった。
………『よい』……、またそんな事を考えていると、今度はナース?(ナースにしては些か露出が過ぎるのだが)が、
「しっかり食べて下さいね♪」と注意を促した。その時小さな音が聞こえてそちらを見れば、備え付けの棚の前で何やら小瓶をカチャカチャと鳴らし、ナースが忙しそうにしていた。
………さっきの《アレ》はあの音だったか……
と、一時幸せだった頃の記憶を呼び覚ました物の正体を知る。
父親が毎朝優しく頭を撫でて起こしてくれた、そんな感覚まで思い出せたのは、
あの《雨の日》以来だった。
膝の上に置かれた皿をベッドサイドのキャビネットに除けて、マチはまた夢の続きに縋るように身体を横たえ目をつぶった。