Dream・カルマRain

□カルマRain 再
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始まりは誰も気にしない。
足早に去る者もいない。
しかしそれが激しさを増す頃、ポツポツと大地に染みを作るだけだったそれは全てを黒く、じっとりとしたもので覆い尽くす。そして通る者の足を掬おうと狙っているのだ。

彼日〈かのひ〉の罪を隠そうとも、洗い流そうともしてはいない。
泪〈なみだ〉する者の影を霞〈かす〉めさせるだけだ。




あの憂鬱な島が間近に迫る頃、船底に近い武器庫の前でマルコはただ、その行為を眺めていた。

少女が手慣れた手つきで暗器を身につけていく。
遠退いてしまった何かをまたその身に纏う様に、それが在るべき姿かの様に。

マチは最後に自分の二振りの刀を手にした。そして同時に、ヒュッと空気を切るように回転させ、暫く刀身を見つめてから背中の鞘に納めた。そこで初めてマルコに振り返った。

「手入れしてくれていたのか?」

「……あぁ、あのまま放っといちゃ錆びちまうからねい。それに……他の物より大事に使ってんだろい。」

「何から何まで済まなかった。私の態度も散々だった。…あんた達は……私の知っている海賊とは少し違うようだ。非礼を詫びよう。」
それは正直な、真っ直ぐな言葉だった。
思えば彼女は最初からそうだった。
家族を殺した海賊にも真っ直ぐに向かっていた。ただ一心に復讐を成したのだ。
《海賊》と語る全ての者が憎いと感じるのも当然の事だ。
なのにマルコ達は『違う』と言ってくれた。短い時間で、自分達がマチに感じたように、マチもまた、同じ様に感じてくれたのだ。

今はそれで充分だった。マルコは手にしていたマントをマチに黙って手渡した。
マチはそれを纏いマルコの隣を音も無く通り過ぎて行った。

暫くして遠くでエースが「何で行っちまうんだよ〜〜〜〜〜!」と大声で叫んでいるのが聞こえた。マチが船を降りてしまったのだろう。


外では小さな雨粒が島を黒く染め始めていた。
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