Dream・ファントムPain

□ファントムPain 渇望
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《傍若無人》

《極悪非道》

《唯我独尊》

彼を表すとすると、こんな言葉だろうか。
だがこれらも彼の一面でしかない。
本人すら気づかぬ程の心の奥底には、まだ眠る彼がいるのだ。


《ユースタス・キャプテン・キッド》
烈火の如き紅を纏う彼は、海賊の中ではまだ『ルーキー』と言う位置付けだ。






キッド海賊団がその島に着いたのはまだ夜も明け切らぬ早朝だった。
朝焼けの紫の空に、島を覆う白がチラチラと美しく光り見る者の心を震わせる。


「チッ、…寒ぃな。」
そんな景色にも何の感慨も抱かないのか、キッドは盛大に舌打ちして忌ま忌ましげに島を睨んだ。

「冬島だからな。…何だ、今朝は随分早いな。」

そんなキッドにいつものマスクから白い息を零しながらキラーが声を掛ける。

「寒くて眠れねぇ。」

「フッ。上陸が楽しみで眠れないんじゃ無かったか。」
キラーがいつもの調子で軽口を叩く。

「っガキじゃねぇんだぞ!」

そう言って踵を返すキッドにキラーが笑いを噛み殺しながら尋ねた。

「キッド?降りないのか?」

「…寝る。こんな朝っぱらからやってる酒場があるかよ?」

「違いない。…物資の補給はいつも通りだな?」

そのキラーの問いも聞いているのか、いないのか片手をヒラヒラさせてキッドは船内に入ってしまった。

「相変わらず自由な奴だ。」と、いつも面倒事は自分に回ってくるキラーがため息混じりに呟いた。



キッドは眠るのが苦手な人間だった。

自分の腹の中に渦巻く獰猛さ故か、ギラついた欲望が満たされた事が無い為かは判らないが、とにかく自分は『安息』だとか、『平和』だとかに馴染めない性質〈たち〉なのだと諦めている。

眠れるのはいつも明け方、それも僅か数時間だ。今日はそれすら寒さに邪魔された。

自室に戻り、乱暴な仕種でソファに身をもたせ掛け、足元に転がっていた半分程中身の入ったウォッカを一気に煽った。

喉が焼けるように熱くなるがそれも一瞬の事だ。

「…くそ寒ぃ。」
そう吐き捨てる様に呟いて眠れもしないが瞼を閉じた。

閉じた目の裏では島をキラキラと輝かせていた小さな光りが、残像のように残りハレーションを起こしていた。
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