Dream・ファントムPain

□ファントムPain 煉獄
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−この世に存在するどんな音よりもお前の唄が好きだ。−

そう言って私を優しく見つめたあなた。


−広い世界を見に行こう。一緒に。−

だけどあなたは、一人で逝ってしまった。


−自分で命を捨てるような事だけはしないと約束してくれ。−

そしてあなたは私を煉獄〈れんごく〉に閉じ込めたの。




彼女は何時だって眠るのが恐ろしかった。

夢で見る彼はいつも赤に染まっている。
そして最後はどんなに強く願っても、まるで土くれで出来た人形の様にボロボロと崩れてしまう。

彼が最後に残した言葉だけが、彼女をこの世に留めている。だがそれは彼女の望みでは無い。

最後の約束が彼女を縛り、自ら命を絶つ事も赦されず、一日でも早く死が訪れるのを祈りながらも生きる事を強いられている。

彼女にとって《生》こそが苦痛の象徴であり、《死》こそが希望だった。

淡いブルーの瞳は孤独を閉じ込めて、今日も死ねないまま浅い眠りについた。




また同じ一日が始まる。深く眠れなくて、怠い体はいつもの事だ。
ゆっくりと起き上がりまだ町中が惰眠を貪る中、浜辺に一人で散歩しに行くのが彼女のひそかな日課だ。

浜辺に頼りない足跡を残しながら波打際を裸足で歩く。指の間をサラサラと抜けていく冷たい砂の心地良さに、幾分体が軽くなる気がした。

ぼんやりと水平の彼方に目をやれば朝焼けの中、薄紫に靡く雲が美しかった。その中にぽつりと一隻の船が見えた。島に上陸するため、ごく近くにあるその船の上にはどうやら人が居るようだ。
ハッキリとは見えないが、赤い髪が朝日に燃える様に輝いている事だけはわかる。

……とても、綺麗。…

さっきまで夢で見ていたあの不吉な赤とは違う。

いつまでも見ていたい。

そんな気持ちで眺めていたが、そろそろ陽が昇ってしまう、店の人達に見つかるともうここには来れ無くなるだろう。それに冷たい波で足も痛くなってきた。
足早に浜辺を後にしたが、一度だけ振り返ってみた船に、美しい赤は見当たら無かった。
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