Dream・ファントムPain
□ファントムPain 邂逅
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薄暗く汚い酒場の路地裏に対峙する二人の男。
一人は黒い服を纏いいかにも《用心棒》然としたがたいの良い男。
もう一人は燃えるような赤を纏い、こちらも堅気とは到底思えぬ人相の悪い男。
しかし、向かい合う二人は実に対照的だった。
がたいの良い男は警戒心をあらわに銃を構え、目の前の男を睨みつけている。
しかしそれも虚勢に過ぎない。口は横に引き結ばれ、せめて震える声を出すまいとしているようだった。
実際用心棒の男には解っていた。自分と相手の《格の違い》のようなものが。
まがりなりにも元海兵だったその男は、海軍に入って一年もしない内に素行が悪く『正義』の看板を降ろす事になった。そして今《用心棒》としてこの店に雇われている。だがそれも命有っての事だ。
銃を握る手に汗が滲んだ。
対する男は何の気負いも無い。逆にそれが得体の知れない恐怖を感じさせた。
そしておもむろに声を発した。
「よぅ。」
拍子抜けしそうなその言葉にすら用心棒が怯んだ。しかしその言葉は用心棒に対してでは無い。
暗い路地でも隠せない程に美しく輝く金髪。月明かりに浮き立つ白い肌。淡いブルーの瞳がキッドを見つめた。
その瞬間、キッドはまた腹のうちで欲が疼くのを感じた。
そしてハッキリと自覚する。
『自分はこの女を欲している。』
そこで小さく、だが耳障りな音を聞く。
用心棒の男がカチャリと撃鉄を上げた。
「……ユースタス・キャプテン・キッド………何の用だ。」
先程より冷静さを取り戻したのか、はたまた自分の役割を思い出したのか、用心棒の男がキッドに問いかける。
だが引き金に掛けた指がカタカタと震えていた。
「……おいおい、そんなに震えてちゃこの距離でも外すぜ。」
そう言って酷薄な笑みを浮かべたキッドがおもむろに手の平をかざす。
「リペル。」
そう一言呟いたと思ったら男の手にあった銃が、まるで飼い主に走り寄る忠犬の様にキッドの手に収まった。そして間髪入れずに火を噴いた。
だがキッドの目には自分が殺した男も眼中には入らない。
その目は一度も外される事なく女を見据えていた。
女は目の前で人が撃たれて死んだというのに、叫び声の一つも上げなかった。ただ地面に伏している用心棒の男をじっと見つめている。
あの淡いブルーの瞳が自分を見ていない。
それだけでキッドは無性に苛立った。
チッと舌打ちをして、地面を赤く染めはじめた男を乗り越え女の眼前に立つ。
ゆっくりと顔を上げた女と再び目が合えば、キッドは満足気にその顔にニヒルな笑みを浮かべた。